2022 Fiscal Year Research-status Report
A study of the music policy in France between 1936 to 1958
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19K00233
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
田崎 直美 京都女子大学, 発達教育学部, 准教授 (70401594)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 音楽 / 文化政策 / フランス / 芸術 / 20世紀 / ヴィシー政権 / 文化省 / 第五共和政 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1936年から1958年までのフランス政府が主導した音楽政策の内容と実態を諸制度との関係において検証し、現在の音楽政策へ至る過程で果たした役割や歴史的意義を考察することを目的とする。研究方法として、三つの異なる政権時 (人民戦線内閣期、ヴィシー政権期、第四共和政期) に実施された音楽政策について、それぞれの政権期間ごとに調査を行った上で、最後に比較検討を行う。 2022年度は次の三つの点で研究成果をあげることができた。 ①音楽教育に関する政策に焦点を当て、文化省「音楽課」初代責任者であるM.ランドスキが文化省と国民教育省双方で試みた音楽教育計画 (1966-77年) と、ヴィシー期にA.コルトーが国民教育省で試みた音楽教育再編計画 (1941年5月6日覚書、筆者による調査) を比較検討した。その結果、国の施設で音楽教授職に就く際の資格制度の設立、および音楽教育の機会均等への配慮に関する政策に、類似性が確認された。これにより1960年代に始まるフランスでの大規模な音楽教育改革は、少なくともヴィシー期にはすでに音楽政策を担う立場から重要な課題として認識されていたことが判明した。 ②フランス国立公文書館での史料調査の結果、ヴィシー政権期にA.コルトーが計画し「職業音楽組織委員会」で実施した「職業音楽家認証制度」が、戦後少なくとも1957年までは継続していたことが、従来の研究では指摘されてこなかった新事実として判明した。 ③第三共和政期から第五共和政初期までのフランス政府諸機関とそこでの音楽政策のあり方について、体系的に整理した。この過程で、国内向けだけでなく外国向けの音楽政策についても調査した結果、従来フランスの主な音楽政策機関と考えられていた芸術局 (国民教育省) 以上に、外務省が1936年以降に積極的なフランス音楽宣伝政策に乗り出していたことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年~2021年度はCovid-19パンデミックの影響によりフランスでの史料調査ができなかったが、2022年度には8月にフランス国立公文書館での史料調査 (芸術局での音楽政策関連:F/21/8709 - 8720) を実施することができた。加えて、2022年度は以下の研究活動を実施した。
- 1958年以前と以降でのフランスの音楽政策の違いを明確にするために、昨年度に引き続きM.ランドスキが文化省と国民教育省双方で計画・実行を試みた音楽政策を検証し、ヴィシー期にA.コルトーが国民教育省で試みた音楽教育再編計画と比較考察した。[日本音楽教育学会第53回大会で研究報告、『昭和音楽大学研究紀要』第42号 (2023年3月) に論文掲載] - 国際学会で研究成果の個人発表を行った。ヴィシー期に新設されたフランスの国家機関「失業対策委員会」が組織した「オーケストラ錬成所」について、成立背景、活動内容と特徴、当時の評価について検証し、この斬新な試みの意義とその断絶の意味について報告した。[21st Quinquennial Congress of the International Musicological Society (アテネ大学:ギリシア)、2022年8月] - 第三共和政期のフランス政府諸機関と音楽政策について、国内・外国向け双方を調査し、学術書に寄稿した。[榎本泰子他編著『上海フランス租界への招待:日仏中三か国の文化交流』勉誠出版] - 2022年2月に上梓したヴィシー政権期の音楽政策に関する拙著 (『抵抗と適応のポリトナリテ:ナチス占領下のフランス音楽』アルテスパブリッシング) に関連して、シンポジウムに参加、研究内容を発信するとともに意見交換を行った。[日本音楽学会東日本支部 第77回特別研究会、日本音楽学会 西日本支部 第55回(通算406回)定例研究会]
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Strategy for Future Research Activity |
今年度 (2023年度) は研究期間の再延長が認められた結果の最終年度として、2022年度に収集した第四共和政期の「職業音楽家認証制度」に関する史料の整理・分析・考察を遂行し、対象時期 (1936-58年) のなかでも特に第四共和政期の「芸術・文学総局」の音楽政策に関する情報を補完する。そして、その後の文化省「音楽課」(1966-74年) の政策との関連性や連結のあり方を考察することで、フランス「音楽政策萌芽期」の果たした役割や意義、後世への影響について、包括的な考察を行う予定である。 今年度の新たな研究成果 (第四共和政期の「職業音楽家認証制度」の実態について) は、原著論文もしくは研究報告(単著)の形で投稿予定である(『昭和音楽大学研究紀要』第43号, 2024年3月刊行予定)。 次年度(2024)以降には、本課題における包括的考察の結果を日本音楽学会全国大会および国際文化政策研究学会 (ICCPR 2024, ワルシャワ) で発表し、研究論文として国際学会誌 Music and Politicsで発表することを計画している。将来的には、今年度から新規に開始する研究課題「第五共和政初期フランスにおける国内及び対外音楽政策の多層性の研究」の成果と連結して、フランスが「文化大国」を自負するに至る1981年までの音楽政策のあり方とその効果や影響について、学術書として体系化することを目指す。
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Causes of Carryover |
当初の計画では2021年8月下旬と2022年2月下旬の計2回、フランス国立公文書館で史料調査を実施する予定であった。しかし、Covid-19パンデミックの影響により海外渡航することが困難な状況にあったため、史料調査を延期せざるをえなかった。昨年度(2022)に入りようやく、延期分の海外調査 (パリ)および国際音楽学会大会 (アテネ)での研究発表を実施することができた (8月下旬~9月上旬)。 本年度(2023)は、昨年度収集した史料の整理・分析の完成を目指す。分析と考察にあたっては、参考資料となる論文や専門書等の購入が必要になる。
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