2019 Fiscal Year Research-status Report
日本を中心としたアジア諸国の現代美術と美術理論に関する総合研究
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19K00238
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Research Institution | The National Museum of Modern Art, Tokyo |
Principal Investigator |
米田 尚輝 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館, 企画課, 主任研究員 (50601019)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 現代美術 / 表象文化論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、映像を主たる表現手段とする日本の現代美術家の活動を中心に調査を進めた。その研究の成果は以下の展覧会と展覧会カタログ論文に結実している。「話しているのは誰? 現代美術に潜む文学」は、田村友一郎、ミヤギフトシ、小林エリカ、豊嶋康子、山城知佳子、北島敬三、以上の日本の美術家6名によるグループ展である。展覧会タイトルが示唆する通り、本展は現代美術における文学の役割に照準を合わせている。ここで文学という言葉が指し示すのは、書物の形態をとる文学ではなく、構成要素として文学が内在している視覚芸術作品である。 今日では、絵画や彫刻などの伝統的芸術ジャンルの峻別方法では捉えきれないほど、美術の表現手段は多様化している。インスタレーションの名のもとで包括される作品群、あるいは作家や観者を作品のひとつの媒体とするパフォーマンスやソーシャリー・エンゲイジド・アートと呼ばれる作品群など、これらの傾向を芸術ジャンルの区分に従って分類することは難しくなってきている。このような状況を背景に本展では、視覚芸術あるいは造形芸術という言葉が如実に物語るように、現代美術において従来的に美術と親和性が低いものとして考えられ、これまで看過されがちであった文学という芸術ジャンルに着目した。 文学における美術という枠組みでは、絵画描写(エクフラシス)の問題を挙げることもできる。そこでは、言語芸術(=文学)によっていかに視覚芸術(=美術)を描写するかが問題となるが、言語芸術は、視覚芸術を心的イメージとしてしか表象することはできない。その一方で、言語芸術と視覚芸術という二項は、少なくともイメージという共通項で結ばれている。展覧会の英文タイトル「Image Narratives(イメージ・ナラティヴス)」という言葉は、言語と視覚が共有するこのような概念に由来している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度の成果としては、以下の展覧会を企画し、その展覧会カタログを発行することができた。これは初年度の研究成果としては、おおむね順調な進展だと考えられる。 展覧会「話しているのは誰? 現代美術に潜む文学」展(国立新美術館、2019年8月28日~11月11日);展覧会カタログ『話しているのは誰? 現代美術に潜む文学』(美術出版社、2019年) とりわけ、映像を主たる表現手段とした作家、田村友一郎、ミヤギフトシ、山城知佳子の作品について検証できたことは大きな研究の進展である。現代美術における映像作品は、しばしば商業映画と異なる批評基準によって分析されてきた。異なる基準のひとつに、商業映画がしばしば文学との並行関係で語られてきた歴史的経緯を挙げることができる。この点において、現代美術における映像を、文学という視点から捉え直すことは効果的であった。 しかしながら、下記の「今後の研究の推進方策」でも述べているように、新型コロナウィルスの影響により国内外の研究機関ならびに美術館への渡航が制限され、今年度以後の調査の遅れが懸念される。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究が掲げている中心的作業は以下の3つである。1)日本国内外で開催されている国際展ならびに美術館で開催されている展覧会の調査、2)国外の美術館ならびに美術施設との連携と聞き取り調査、3)現代美術にまつわる理論的言説の精査である。 ただし、2020年度は、1)と2)に関して、計画の遂行に研究代表者の物理的移動を伴うため、新型コロナウィルスの影響を考慮しながら実行するかの判断を行う。したがって、現在のところ、本年度は、3)現代美術にまつわる理論的言説の精査を積極的に進める予定である。 20世紀のアメリカではメディウムの固有性を重視するモダニズム美術とそれにまつわる言説が興隆するが、今日においてもモダニズムの理念を(時には批判的に)継承した絵画と彫刻は国内外で評価されている。こうした状況を背景に、1990年代から現在までの、絵画と彫刻を起点に作品制作を行うオブジェクト指向の美術家に関する言説の分析を行う予定である。
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Research Products
(2 results)