2021 Fiscal Year Research-status Report
日本を中心としたアジア諸国の現代美術と美術理論に関する総合研究
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19K00238
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Research Institution | The National Museum of Modern Art, Tokyo |
Principal Investigator |
米田 尚輝 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館, 企画課, 主任研究員 (50601019)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 現代美術 / 美術史 / 表象文化論 / 美学 / 芸術学 / 博物館学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本ならびにアジア諸国の現代美術の作品を理論的言説とともに検証するものである。本年度は、1960年代末から1970年代初頭にかけて活動した美術家集団もの派、およびのその中心的人物であった韓国の美術家・李禹煥の活動について調査を進めた。東洋と西洋の思想を吸収した李禹煥は、来日後、1960年代後半から現代美術に関心を深め、本格的に作品制作を開始した。視覚の不確かさを問うた李は、自然や人工の素材を節制の姿勢で組み合わせるスタイルを確立し、美術運動もの派を牽引した。1960年代後半より著述活動を始めた李はもの派の理論的支柱となり、とりわけ1971年刊行の『出会いを求めて』はもの派の重要文献である。 李禹煥は、70年代以降は〈線より〉や〈点より〉、80年代以降は〈風と共に〉や〈照応〉など、静謐な画面の絵画シリーズを制作し続けている。一方、立体作品といえば、1960年代後半から制作が開始された〈関係項〉のシリーズが、そのままのシリーズ名で今日まで継続されている。本研究では、とりわけ〈関係項〉の構想と展開に着目している。本年度は、李禹煥によるこれらの著作、その他のもの派の作家たち、ならびに同時代の美術評論家たちの言説を精査した。国内の研究機関において文献や写真資料の渉猟を行うとともに、李禹煥へのインタビューも遂行した。以上で本研究にとって基盤となる資料調査は完了した。来年度は、研究の成果を論文として発行する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍における海外渡航の制限が完全には解放されない中で、日本国内の作品調査を進行することができた。作家とのインタビューも複数回にわたり実現した。また、論文執筆の基盤となる資料調査も、東京文化財研究所ならびに慶應義塾大学アート・センターにおいて網羅的に行うことができた。とりわけ慶應義塾大学アート・センターでは、文献調査のみならず、展示風景をはじめとする写真資料の調査を遂行することができた。この写真資料の収集と精査は、本研究を大きく押し進めた。本年度は資料収集と精読に多くの時間を割いたが、以上で本研究に必要とされる資料の渉猟は概ね終了したといってよい。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、もの派ならびに李禹煥に関する研究の成果を、1)展覧会、2)展覧会カタログ所収予定の論文、3)国際シンポジウムにおいて発表する予定である。展覧会は8月に開催予定、展覧会カタログは8月に発行予定、国際シンポジウムは秋頃に開催予定である。 2)が最も直接的に研究成果が反映される業績となる予定である。その内容は、1960年代後半から制作が開始された、主に石、鉄、ガラスを組み合わせた立体作品のシリーズ〈関係項〉の変遷を辿るものである。1990年代以降、李禹煥がものの力学や環境に対しても強く意識を向けるようになり、環境に依存するサイトスペシフィックな傾向を強める過程を追跡する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナの影響により海外渡航が制限され、当初予定していた海外での調査やインタビューが実行できなかったため。
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