2019 Fiscal Year Research-status Report
障がい者の美術活動が拓く「心のバリアフリー」についての基礎的研究
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19K00244
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
青柳 路子 東京藝術大学, 美術学部, 准教授 (70466994)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 障がい者の美術活動 / 心のバリアフリー / アート / 美術 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、障がいのある人の美術活動を通した「心のバリアフリー」の実践調査と文献研究に取り組んだ。 実践調査は、学校教育を対象に行った。具体的には、障がいのある人の属する社会福祉法人職員および実践を行っている学校教員へのインタビュー、そして小学校、中学校における実践の参観調査であった。調査した実践が始められたきっかけは学校教員の発意、また社会福祉法人から学校へのアプローチによるものと一様ではなかったが、いずれも障がいのある人の美術活動に積極的に取り組む社会法人とその地域の学校による実践であることが特色であった。授業実践では、障がいのある人が制作した美術作品を提示し、その制作者本人が教室空間にいるかたちで行われていた。授業からは、その重心を美術の制作・鑑賞に置くか、あるいは障がい者理解のほうに置くかで授業の展開や学修状況が異なってくる様子が観察できた。また、障がいのある人が学校で授業に取り組むには教師や社会福祉法人職員の介在が不可欠であり、その介在の程度も、障がいの程度により異なってくる現実も理解できた。 学校教育において「心のバリアフリー」に取り組むには、対象となる児童生徒の発達も考慮しなくてはならない重要な点である。2019年度に参観した実践では、過去数年の実践経験を経ていたものであったこともあって、児童生徒の発達を捉えた上で具体的な授業内容の工夫がなされており、安定感があった。 この他、文献研究により、障がい者理解や心のバリアフリーの基礎を踏まえ、論点と課題を整理した。また文部科学省による「学校における交流及び共同学習を通じた障害者理解(心のバリアフリー)の推進事業」の成果報告書から実践状況を分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、研究代表者の過去の研究に基づき、学校教育における障がいのある人の美術活動を通した「心のバリアフリー」に取り組む実践を調査するとともに、障がい者理解や心のバリアフリーに関わる文献研究から論点と課題を整理し、また国が推進する「心のバリアフリー」の学習成果についても整理した。研究初年度であったこともあり、研究の基盤を充実させようと文献研究に比重を置いたところがある。それでも並行して社会福祉法人職員の協力のもと、学校教育現場に足を運び実践について調査できたこと、なおかつ複数の実践を調査できたことは、今後の研究を進める上での基盤を作ることができた。 文部科学省による「学校における交流及び共同学習を通じた障害者理解(心のバリアフリー)の推進事業」の成果報告書などを参照すると、障がいのある人の美術活動を生かした「心のバリアフリー」の取組は、決して多くはない実情がうかがえる。そのような中、2019年度に調査したのは、社会福祉法人と学校の連携が構築され、なおかつ美術活動を積極的に行い、学校の授業に参加できる障がいのある人がいるという条件がそろった貴重な例であったと考える。調査した実践例をもとに、障がいのある人の美術活動を生かした「心のバリアフリー」がどのように実現される可能性があるか、文献研究も踏まえて展望し、次年度以降に取り組むべき課題を明確にすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の調査により、学校教育における障がいのある人の美術活動を生かした「心のバリアフリー」の実践をとらえることができた。新型ウィルスの影響も懸念されるなかではあるが、次年度も同じ学校教育実践を参観し、より多角的にその可能性と課題をとらえられるようにしたい。また文部科学省の「心のバリアフリー」では、障がいのある人の交流だけでなく障がいのある人との共同学習も推進されていることから、共同学習の実践にも視野を広げ、調査を行いたい。 また次年度は、障がいのある人の美術作品を展示する美術館等において教育普及に関わる活動がどのように行われているかについても調査し、学校教育以外の場での、障がいのある人の美術活動による「心のバリアフリー」について検討していきたい。
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Causes of Carryover |
2019年度は、当初予定していた実践調査から文献研究重視へ計画を変更したため、次年度使用額が生じることになった。次年度は、2019年度に十分行えなかった実践調査を充実させ、研究費を使用していく計画である。
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