2022 Fiscal Year Research-status Report
リビング・ヘリテージのための無形文化アーカイブ:バリ島の天女物語をめぐる身体伝承
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19K00249
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
野澤 暁子 (篠田暁子) 名古屋大学, 人文学研究科, 共同研究員 (20340599)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 中世ジャワ文芸 / アーカイブ / リビング・ヘリテージ / 芸能 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はインドネシアのヒンドゥー・ジャワ時代後期に流行した説話「スリ・タンジュン」の身体伝承を「リビング・ヘリテージ」として映像記録化するメディア実践を目標とする。しかし今年度も新型コロナウィルスによる渡航規制が完全に解除される見通しが立たなかったため、現地調査を保留し、文献調査を中心に行った。 特に焦点を当てたのは、植民地時代にスリ・タンジュン説話のオランダ語テクストを出版したインドネシア人文学者プリヨノ(Prijono)の活動である。プリヨノはテクスト研究と並行し、児童文学、詩歌さらに古典歌舞劇の創作を行った。その一事例として注目したのが、日本軍政期に首都ジャカルタで創作したとされるバンジャラン・サリ舞踊劇である。そこでこの舞踊劇の成立背景を精査した結果、三つの重要点を発見した。一点目は、題材である王国神話「バンジャラン・サリ物語」が西欧のジャワ文献学では傍流に位置付けられてきた「底本の曖昧な伝承」である点である。二点目は、この曖昧さゆえにジャワの影絵芝居では多様な創造性とともに伝承されてきた点である。そして三点目は、オランダ植民地時代の19世紀末にヨグヤカルタのパクアラム家の王がこの物語を宮廷芸能として復活させ、民衆にも披露した点である。以上の背景からこの事例をスリ・タンジュン説話のリビング・ヘリテージと関連した現地社会での「文化記憶の創造的伝承」として分析を深め、2023年7月の国際学会で発表を行う準備を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウィルスのリスクが今だ残る状況から、スリ・タンジュン説話のバリ島での身体伝承に関する現地調査を実施できなかった点で本研究の最終目標を達成するここができず、多くの課題を残す結果となった。この説話に関する芸能実践については文献の他にもインターネットを通じて様々な新旧の情報を入手することはできたが、伝承の元となっている集団的記憶、実践における身体的作法、そして現地での解釈といったリビング・ヘリテージの根幹的要素を明確化するには至っておらず、あらためて現地調査の重要性を実感した。 したがって今年度は1940年代の中世王国神話劇の復活に関する文献調査や、近年のデジタル技術を活用した文化遺産保護活動の動向把握といった副次的作業でさらなる基盤固めをはかる一方、助成期間を一年延長することで来年度実施予定の現地での調査記録活動の計画を再設定する作業を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の明確な達成点はアーカイブ構築であり、そのために必須となるのが現地調査で得る資料である。現段階では最大の未達成課題となっている現地調査を遂行することで目標達成に至る見通しである。ただしこの作業はあくまで実践研究としての課題であり、リビングヘリテージをアーカイブ化することの学術的意義を俯瞰的視野から再定義する理論的作業も並行して行う必要がある。 そこで最終となる2023年度の研究計画を「①スリ・タンジュン説話をめぐるテクストと身体伝承の関係性の映像アーカイブ化」「②デジタル技術時代における文化遺産アーカイブの理論的研究」の二本柱で設定した。①に関しては、先行研究をふまえた上で現地でのテクスト解釈や民間レベルでの文化実践のフィールドワークを行い、最終的にこれらメタデータを整理したアーカイブを構築する。②に関しては、メディア論の先行研究の再整理を通じて歴史的視点から今日のデジタル技術時代における文化遺産アーカイブの社会的意義を考察する。以上の実践と理論の両輪から研究を行うことによってデジタル人文学の領域における文化遺産研究の可能性を導き出したい。
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Causes of Carryover |
今年度も引き続き新型コロナウィルスによる渡航規制が不安要因となって現地調査の実施を断念し、昨年度のテクスト研究を発展させる文献調査に専念したため、海外旅費など現地調査に関わる諸経費が未使用のまま残った。今年ようやくインドネシア-日本の渡航規制が大幅に緩和されたため、助成期間を一年延長し、残りの予算を今年度内に実施する現地調査およびアーカイブ構築に集中的に使用することとした。
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Research Products
(3 results)