2019 Fiscal Year Research-status Report
Relationship between the Transition of English Pianofortes Dampers in the 18th and 19th Century and Piano Playing
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19K00250
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
筒井 はる香 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (20755342)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山名 仁 和歌山大学, 教育学部, 教授 (00314550)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イギリス式ピアノ / ダンパー / 止音効果 / 残響 / ペダリング |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、18世紀後半にイギリスで製作されたスクエア型ピアノのダンパー(止音装置)の形状が三段階にわたって変化したことを明らかにすることができた。最初期のダンパーは、ツンペが考案したもので、木製のレバーの先端に正方形の油鞣しの牛革を貼り、弦の振動を上から抑止するものである。第二段階は、1783年にブロードウッドがパテントを取得したもので、真鍮製のレバーの先端に深紅色の羊毛のクロスを付け、弦の振動を下から抑止するものである。これはツンペ型のダンパーが作動する際にノイズが起こるという欠点を補うために考案された。しかしダンパー・ペダルがピアノに一般的に導入され始めた頃から、真鍮製のアンダー・ダンパーは使用されなくなった。第三段階は、サウスウェルが考案したもので、人形のようなかたちをした木製のブロックに薄い布を貼ったものである。第一段階と同様に弦の振動を上から抑止する。これは安価で製作しやすいという理由から、多くの製作家によって使用された。 三種類のダンパーに共通している点は、止音効果が弱く、鍵盤から指を放した後に残響が残りやすいことである。低音域をスタッカートで強く弾いた後、1796年のブロードウッドのグランドピアノは約5秒の残響、1823年の場合8秒、1848年の場合、10秒という具合に楽器のサイズや音量が大きくなるにつれて、残響の長さも増えることが報告されている。 イギリス式ピアノを特徴づける「残響の多さ」が楽曲や演奏に少なからず影響を与えていたと推測されるところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ピアノ音楽演奏研究において、ペダリングを含むアーティキュレーション、すなわち音のつなげ方や切り方は重要な問題であるにもかかわらず、その問題に直接関わる楽器の止音効果が時代や地域ごとにどのように変遷してきたかについては、これまで正確なことが分かっていなかった。そのため作曲家が楽譜に記した演奏指示を理解するための基盤が整っていないと状況であると言えよう。本研究によって次のような仮説を立てるに至った。 1)18世紀後半から19世紀前半におけるイギリス式ピアノのダンパーは意図的に残響が多く残るよう設計されていた。 2)スクエアピアノに限ってみると18世紀後半においてダンパーが三段階において変化した背景には、打弦機構の改良の変化が関わっていたと考えられる。 3)18世紀後半はチェンバロ、クラヴィコード、ピアノが共存していた時期である。当初はチェンバロの演奏法を模倣した「話す」ような演奏が求められたが、ロマン派に近づくにつれ、レガートで「歌う」表現が求められた。このようなピアノ演奏における表現法の変化がダンパーの変遷に影響を与えていたのではないかと推察される。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きイギリス式ピアノについての資料収集を行い、ダンパーの変遷を解明する。令和元年度はスクエアピアノを調査対象としたが、今後は、グランドおよびアップライトピアノも含めて調査を行う。同じ製作会社のなかでも楽器の型に適した素材や形状のダンパーを使用していた可能性があるためである。 実地調査においては、ダンパーの形状、サイズの計測、素材の調査に加え、低音域、中音域、高音域それぞれの残響の長さを計測し、データを作成する。ただし新型コロナウィルスの影響によって、今年度中に欧州の博物館で実地調査を遂行することが困難な状況であり、研究計画は大幅に修正されなければならない。 対応策としては、訪問する機関を国内に限る。オリジナルの、もしくは正しく修復されたダンパーを備えた楽器が多く残っていない可能性もあるが、できるだけ多く国内でのサンプルを集め、令和3年度以降の欧州での調査に備える。オリジナルか否かの判断、素材の選定、調整によってどの程度止音効果が変化するかについて、楽器管理者や修復家と対面することができない場合、メール等を利用して聞き取りを行う。 18世紀後半から19世紀にかけて「ダンパーの抑えが弱いゆえに残響が長く残る」というイギリス式ピアノの特色が楽曲にどのように表れているかについて分析する。 最終年度の録音、すなわち歴史的に正しく修復されたダンパーをもつイギリス式ピアノとモダンピアノを使用し、同一曲による比較演奏録音に向けて、楽器や楽曲の選定を行う。
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