2020 Fiscal Year Research-status Report
Relationship between the Transition of English Pianofortes Dampers in the 18th and 19th Century and Piano Playing
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19K00250
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Research Institution | Doshisha Women's College of Liberal Arts |
Principal Investigator |
筒井 はる香 同志社女子大学, 学芸学部, 准教授 (20755342)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山名 仁 和歌山大学, 教育学部, 教授 (00314550)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 鍵盤楽器史 / ピアノ音楽演奏法 / フォルテピアノ / イギリス式ピアノ / 止音効果 / ダンパー / ペダリング / 18世紀、19世紀 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、鍵盤楽器史研究の一環として18世紀、19世紀におけるフォルテピアノのダンパーの変遷と、ペダリングを含むピアノ音楽演奏法との関わりを解明することを目指すものである。このような目的のため、1)文献調査、2)楽曲分析、3)実地調査、4)比較演奏の4つの方法をとり、2020年度はこのうち主に1)および2)を行った。 1つは、1780年代から1860年代のイギリスにおけるダンパーの特許内容に焦点を当てた。この期間、15名の製作家がダンパーに関して17の特許を取得した。どのような目的で改良が行われたかについて検討した結果、1820年代まではタッチを軽くしたり、ダンパーのオン・オフの際のタッチの重さを一定にするなどタッチの改善を目的とされていたが、1850年代以降は、弦の振動を着実に止めることに焦点が移っていったことが確認された。またダンパーの素材が1850年代にクロスからフェルトに変更されたことが確認された。 次に、イギリス式ピアノを使用した作曲家のうちジョン・フィールドのピアノ音楽作品におけるペダル指示に焦点を当てた。《ノクターン》第1番の初版(1812年以前)には、66小節中45小節のみペダルの指示をしている。一方、1859年に出版されたフランツ・リストによる校訂譜およびその系譜を辿る実用版には、ほとんどすべての小節にその指示が見られる。フィールドがペダル指示を付さなかったのは、スケルツァンド風の曲想、1拍ずつ和音が変化する部分、メロディが始まる直前の部分、高音部で連符が奏される部分である。この分析結果から、フィールドは作品のなかにペダルの有無を併置することによって異なる音響効果を意図していたこと、ペダル指示は当時のイギリス式ピアノの残響効果に基づいていることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、18世紀、19世紀のイギリス式ピアノのダンパーの変遷を明らかにするという研究課題について、文献調査、楽曲分析、修復家への聞き取りを含む実地調査、比較演奏の4つの研究方法を設定した。2020年度の進捗状況は次の通りである。 1)ダンパーの定義、機能、素材、効果の整理:18世紀から20世紀初頭の音楽事典や鍵盤楽器製作史に関する文献資料に基づいて情報の整理を進めている。しかし、イギリス式ピアノ特有の止音効果や残響効果について記された歴史的資料については、引き続き調査が必要である。 2)楽器の実地調査について:2020年度は国内外の博物館および個人コレクションにおける実地調査を通して、現存するオリジナルのダンパーの情報を記録することを計画していた。しかし、新型コロナウィルスの影響により2020年度に予定していた調査はほぼすべて中止となっている。今後、実地調査が難しい場合は、研究方法の見直しを行う必要がある。 3)楽曲分析について:2022年度に比較演奏を行う準備作業として、2020年度はロンドン・ピアノ楽派のうち、ジョン・フィールドに焦点を当てて使用楽器や楽曲の分析を行い始めている。しかし、ダンパーの効果の変遷をより大きな枠組みで明らかにするためには、フィールドの他、18世紀および19世紀にイギリス式ピアノを使用した作曲家の鍵盤音楽作品の調査が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の今後の推進方策については以下の通りである。 1)年代、楽器の形状ごとのダンパーの変遷の解明:①楽器の形状ごとにダンパーの構造原理がどのように異なるのかを整理する。②ブロードウッド社を中心に製作時期や楽器の形状によって止音効果や残響効果にどのような違いがあるかを記録することが今後の課題である。これについては、国立音楽大学楽器資料館、浜松市楽器博物館、ヤマモトコレクションにおいて実地調査を行うと共に、サンプル録音した音源をもとに残響時間を科学的に記録することを予定している。ただし、コロナ禍の影響によって楽器調査が大幅に制限されることが予想される。その場合には、調査対象とする楽器の台数を制限しなければならない。 2)ダンパーの止音効果の変遷が音楽作品に与えた影響について:18世紀、19世紀における止音効果の変遷が音楽作品においてどのような影響を与えているかを把握するため、ロンドン・ピアノ楽派を中心に資料収集およびアーティキュレーションの分析を行う。さらに2022年度に予定している比較演奏において演奏する鍵盤音楽作品の選曲を行う。 3)ダンパーの止音効果の変遷がピアノ演奏に与えた影響について:フォルテピアノとモダンピアノとで止音効果が著しく異なっていたことから、アーティキュレーションのつけ方が変わり、従来とは新しい演奏解釈の可能性を導き出すことができることを実証するため、2)において選曲した鍵盤音楽作品をオリジナル、もしくは正しく修復されたダンパーを備えるフォルテピアノとモダンピアノとで比較演奏を行うことが今後の課題である。
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Causes of Carryover |
2020年度に予定していた国内外の博物館、個人コレクションでの楽器調査が新型コロナウィルス感染のため中止となったため。
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[Book] 西洋音楽史2021
Author(s)
津上英輔、赤塚健太郎、筒井はる香、吉田寛、森佳子
Total Pages
270
Publisher
放送大学教育振興会
ISBN
978-4-595-32258-7