2021 Fiscal Year Research-status Report
Relationship between the Transition of English Pianofortes Dampers in the 18th and 19th Century and Piano Playing
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19K00250
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Research Institution | Doshisha Women's College of Liberal Arts |
Principal Investigator |
筒井 はる香 同志社女子大学, 学芸学部, 准教授 (20755342)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山名 仁 和歌山大学, 教育学部, 教授 (00314550)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 鍵盤楽器史 / イギリス式ピアノ / スクエア・ピアノ / ダンパー / 止音効果 / 残響 / ペダリング |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、2021年に同志社女子大学音楽学科に導入された1814年製のジョン・ブロードウッド&サンズ社のスクエア・ピアノを中心に調査した。この楽器のダンパーには、サウスウェルが考案したドリー・ダンパー(人形型の木製ブロックに薄い布を貼ったもの)が使用されている。一部の布は修復時に貼り替えられたものの、オリジナルの部分が多い。なお高音部10鍵にはダンパーが付いていない。止音効果はモダンピアノと比べるとはるかに弱い。ハイドンのクラヴィーア・ソナタ第36番ハ長調をスクエア・ピアノとモダンピアノで比較演奏すると、前者では、次の音が打鍵されるまで前の音は完全に減衰しない特色がある。これについての科学的調査は次年度に行う。スクエア・ピアノにはダンパー・ペダルが備えられているが、これは音を持続させるためというより、むしろ音色の変化など特別な音響効果を作り出すために使用されるという仮説を立てた。 本研究は、鍵盤楽器史研究の一環として18世紀、19世紀におけるイギリス式ピアノの止音装置ダンパーの変遷と、ペダリングを含むピアノ音楽演奏法との関わりを解明することを目指すものである。このような目的のため、実地調査によるデータ収集が欠かせないが新型コロナウィルスの影響により叶わなかった。次年度も国外で実地調査を行うことは困難である可能性が高いため、共同研究者と打ち合わせを行い、今後の研究計画について見直した。その結果、調査対象とする楽器を大幅に絞ることにした。 上記のように研究計画が修正されたことにより、2022年度の録音実験に必要な機器(コンデンサーマイクロホンステレオセット、密閉型モニターヘッドホン、オーディオレコーダー)を購入した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
現在までの進捗状況を「遅れている」と自己評価した最大の理由は、当該研究に関する論文と学会発表の成果が今年度は無いためである。これは、本研究において最重要である実地調査が、新型コロナウィルスの影響により遂行できなかったことと大いに関係がある。 その一方で、共同研究者との話し合いの結果、研究計画を見直し、調査対象とする楽器を絞ることにした。具体的には、2021年度に同志社女子大学音楽学科に導入されたジョン・ブロードウッド&サンズ社のスクエア・ピアノ(1814年製作)を中心に調査する。研究計画が大幅に修正されたことによって、当初の予定より研究の規模は縮小されたように見えるが、より実行可能な内容になったと評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の計画の実現に向けて、以下の3点に基づいて推進する。 1)録音による実験、分析に関する先行研究の収集及び研究協力者の確保。比較演奏を行う場合、空間の音響条件やマイクを設置する位置等、できる限り条件が同じであることが求められる。このような録音方法についての知見の獲得と、得られた録音データに基づき、楽器ごとの残響時間を科学的に提示する方法についても先行研究の調査が必要である。さらに、研究代表者は音響学を専門としていないことから、実験や分析の際には専門家の協力が必須である。 2)修復家、技術者、演奏家との連携の強化について。演奏録音で用いる楽器の修復の状態を正しく知るためには修復家にインタビューを行い、どのような修復がなされたかを記録する必要がある。同様にモダンピアノについても構造上の特色について技術者へのインタビューが欠かせない。それらの知見を演奏者と共有し、ペダリングを含む演奏法についてどのような提案をすることが可能であるかを演奏者から聞き取りを行う。それゆえこの研究には、修復家、技術者、演奏家との連携の強化が求められる。 3)時勢の変化に基づいた柔軟な取り組みについて。現時点では新型コロナウィルスの影響からやむを得ず研究計画を大幅に修正することとなったが、今後、世界情勢が落ち着きを見せ、海外への渡航や博物館等の公共機関で調査の受け入れが可能になった場合には、ヨーロッパでの実地調査を再開し、当初の研究目的であった18世紀から19世紀にかけてのイギリス式ピアノのダンパーの機能の変遷を辿るデータの収集を行いたいと考えている。
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Causes of Carryover |
当該助成金が生じた状況について、予定していた国内外での実地調査ができなかったため旅費として計上していた金額を消化することができなかったためである。翌年度分として請求した助成金と合わせて、国内(大阪、東京等)で調査を行うための旅費と、録音機器(A/Dコンバータ等)の購入に充てる予定である。
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