2022 Fiscal Year Research-status Report
Relationship between the Transition of English Pianofortes Dampers in the 18th and 19th Century and Piano Playing
Project/Area Number |
19K00250
|
Research Institution | Doshisha Women's College of Liberal Arts |
Principal Investigator |
筒井 はる香 同志社女子大学, 学芸学部, 准教授 (20755342)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山名 仁 和歌山大学, 教育学部, 教授 (00314550)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | イギリス式ピアノ / 止音装置 / ダンパー / ブロードウッド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,鍵盤楽器歴史研究の一環として,18世紀,19世紀におけるイギリス式ピアノの止音装置ダンパーの変遷と,ペダリングを含むピアノ演奏法との関わりを解明することを目指すものであった. 今年度は研究計画書に示した実地調査のうち,国立音楽大学楽器学資料館において,製作年代、形状の異なる7台のブロードウッドのフォルテピアノ(1791年スクエア,1817-18年アップライト・グランド,1820年グランド,1830年スクエア,1843-52年キャビネット,1850年グランド,1900年グランド)を,ダンパーに使われた素材の変遷と止音効果との関わりに注目して調査した.1790年代-1830年代のダンパーにはクロスが用いられていたが,1850年代以降のそれはフェルトに変わっていた.このことは一昨年度に行った,特許に関する文献調査で得られた結果を裏付けるものである. 1850年以降の2台のグランドのダンパーは形状が異なっており,それに伴い止音効果が異なっていることが確認された.すなわち一続きのフェルトが用いられた1850年グランドは残響が残りやすい特徴を残していた.従って,クロスからフェルトへの素材の変化が単純に止音効果と直結していたわけではなく,段階的に止音効果が高められていった可能性が考えられる.この問題を明らかにするためには,1850年代以降に製作されたジョン・ブロードウッド&サンズの楽器をより多く調査することが不可欠である. 同資料館が所蔵する1830年代スクエアで,ジョン・フィールド《ノクターン》第1番を,初版に記されたペダリングに忠実に試奏し,モダン・ピアノとの差異を確認した. 今年度は,所属機関においてフォルテピアノを主題とした公開講座を実施した(4月27日、10月12日).このうち後者は,演奏者に河江優氏と三橋桜子氏を招き,歴史的鍵盤楽器を用いた演奏とレクチャーを行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度に引き続き,今年度も新型コロナウィルスの影響やウクライナ情勢により,研究計画書に示した海外の博物館やコレクションでの実地調査,ならびにダンパーの素材や調整法について修復家への聞き取り調査することができなかったためである。 なお昨年度の研究実施状況報告書には,新型コロナウィルスの影響により海外渡航ができない状況を鑑み「研究の規模を縮小し」,「対象とする楽器を絞ることにした」と記したが,本研究の目的を達成するためには,実地調査によってデータを収集することが不可欠であるという考えに至った.そのため「研究の規模を縮小」することなく,当初の計画通り,国内外での調査を実施することとする.
|
Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルス感染症の位置付けが2023年5月8日以降,2類感染症から5類感染症に移行し,渡航が現実的となったことから,今後は,当初の研究計画に示した国内外での実地調査を行い,イギリス式ピアノのダンパー装置に関するデータの収集および修復家への聞き取りを行いたいと考えている.具体的には,8月および9月にイギリス,オランダでの調査を計画している. また止音装置ダンパーと演奏法との関わりを演奏実践の観点から明らかにするため,正しく修復されたダンパーをもつイギリス式ピアノとモダン・ピアノを使用し,同一曲による比較演奏を行う.なおこの比較演奏は2月下旬から3月初旬にかけて公開で行われ,録音される予定である. 2023年度は本研究計画の最終年度であることからこれまでの研究成果をまとめ,学会発表および論文として発表する予定である.
|
Causes of Carryover |
今年度予定していた国外での実地調査を行うことができなかったためである。翌年度分として請求した助成金と合わせて、国外(ロンドン、アムステルダムなど)で調査を行うための旅費と、公開演奏会およびその録音にかかる費用に充てる予定である。
|
Remarks |
「シューベルトの弾いたピアノとは?」は住友生命いずみホール音楽情報誌『Jupiter』2022年6,7月号に掲載されたエッセイである. 2022年度同志社女子大学音楽学科公開講座は,4月27日に同大学で行われた.フォルテピアノ奏者川口成彦氏によってフォルテピアノとモダンピアノによる比較演奏が行われ,修復家山本宣夫氏によってフォルテピアノ修復のプロセスが説明された.研究者は企画と進行を行った.
|