2019 Fiscal Year Research-status Report
近代以降の科学技術医学の学術文献に掲載される図像に関する歴史研究
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19K00266
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橋本 毅彦 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (90237941)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 祐理子 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (30346051)
河野 俊哉 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 学術研究員 (40600060)
吉本 秀之 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (90202407)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 科学史 / 技術史 / 化学史 / 原子 / 図像 |
Outline of Annual Research Achievements |
橋本は、主としてX線回折による結晶分子構造の研究の歴史を追うとともに、近代における日欧の植物図譜の比較史を検討した。X線回折は20世紀初頭に物理学者によって発見された後、20世紀の物質科学・生化学の発展に大きく貢献したが、そこには回折によって生じるパターンを読み取る作業が含まれている。7月と9月の会合ではウィリアム・L・ブラッグの初期の研究とその後の半世紀にわたる研究の発展を追いかけて、回折パターンの読解の技法の発達と科学的成果を探った。またその一方で、図像を「視覚的言語」としての捉える議論に注目し、その概念に基づくKarin Nickelsenによる植物図譜の歴史研究を参考にしつつ、18・19世紀における欧州と江戸時代の日本における植物図譜の歴史について予備的な検討を行った。吉本氏は、17世紀に近代科学の基礎を築いたデカルトの自然学関係の著作に現れる図像に注目し、その内容を分析した。それらの図版は、デカルトが提唱する機械論的モデルを提示するものであり、機械の装置図に注目することがデカルトの機械論的思考の内実に新しい光をあてることを可能にすると考えられる。またもう一つのテーマとしては、化学史上の諸文献に現れる図像の調査を行った。化学文献に現れる図像については、化学史家のマルコ・ベレッタ氏が重要な研究をしているが、その研究を批判的に再検討した。田中氏は、原子の可視性というテーマについて検討しており、各種の顕微鏡などを利用した画像とともに、20世紀初頭のジャン・ペランの研究に注目して調査研究を続けているところである。河野氏は、宇田川榕菴の『舎密開宗』に掲載される化学機器の図像に注目し、その内容と、オリジナルとなる欧州の著作の図像との関連性を検討してきている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度には計画通り、7月、9月、3月に研究会を開催した。7月には橋本がX線回折の図像パターンについて、吉本氏がデカルトの著作の図像について、田中氏が原子の可視化の歴史について、河野氏が宇田川榕菴の『舎密開宗』に登場する図像について、それぞれ研究発表した。9月には、橋本と田中氏と河野氏は7月の発表の続きを、吉本氏は近代初期の化学文献に現れる図像に関して研究発表した。2020年3月には、河野氏と田中氏は引き続き榕庵の著作の図像と原子の可視化の歴史について発表し、橋本は18・19世紀における欧州の植物図譜と江戸時代の日本の植物図譜とを比較検討するテーマについて、吉本氏は中世から近代までの化学文献に現れる図像を概観したうえで、特に17世紀初頭のアンドレアス・リバヴィウスの著作に現れる図像について先行研究を参照しつつ紹介した。3月には、それとともに、科学哲学を専門とする伊勢田哲治京都大学教授を招き、科学哲学の観点から科学における図像の意義や役割、可視化をめぐる哲学的問題などについて講演をして頂いた。また東京大学で博士論文を準備している山口まり氏も招き、電子顕微鏡やSTMとは異なるFIMと呼ばれる原子レベルの状態を可視化できる装置の歴史を紹介して頂いた。伊勢田氏の研究発表は参加者にとって概念や問題の所在を明確化してくれるものであり、山口氏の研究発表は顕微鏡的な観察が時に科学者の間で論争にもなることを教えてくれるものだった。所定の研究会の他には、橋本が8月に日本科学史学会主催の科学史学校において「科学史における図像の製作と利用」と題する講演を行い、講演内容を基にして同じタイトルで当該テーマに関する近年の主たる研究と研究動向について執筆した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度もまた、3回の研究会を開催する予定である。このうち第1回の会合は、7月に開催される化学史学会におけるシンポジウムとして4名のプロジェクト参加者によるシンポジウムを行う計画である。本シンポジウムの予稿はすでに提出されており、それぞれのタイトルは次の通りである。「L.ポーリングとW.L.ブラックの分子構造研究と視覚表現技法」(橋本)、「化学文献における図像:中世からラヴォワジェまで」(吉本氏)、「原子の可視化・再考:理論負荷性から直観の復権へ?」(田中氏)、「『舎密開宗』周辺の図像とラヴォワジェ前後の西欧化学史」(河野氏)。橋本は、2019年度前半に調査研究を行ったX線回折パターンの図像分析による分子構造の研究の発展を追いつつ、分子の具体的な立体モデルを用いた分子構造の研究との関連性を検討する。その際に、ブラッグとポーリングの研究に焦点を当てる予定である。吉本・田中・河野の3氏については、3月の会合で発表したテーマをさらに継続して研究を続ける予定である。化学史学会のシンポジウムの講演については、それらを元にして『化学史研究』にそれぞれの論文が発表される予定である。また、2019年度の3月の会合においては、当初大阪に所在する杏雨書屋の資料を利用しつつ同館で開催される予定であったが、コロナ禍により同館が臨時閉鎖されたため開催することができなかった。再び開館された以降、河野氏と橋本が同館の資料を利用して調査を続ける予定である。そしてまた、前回の研究プロジェクトの際に研究会に参加して協力してくれたケンブリッジ大学の楠川幸子氏にも、状況が許すようであれば協力を依頼し、知見と情報を得たいと考えている。
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Causes of Carryover |
2019年度の第3回の会合は京都大学で開催したが、2月の時点で大阪と京都の2か所で開催することを計画した。大阪に所在する杏雨書屋という資料館に所蔵され、本研究にも関係する文献を直接閲覧することでそこに掲載される図像を直接確認するとともに、杏雨書屋の付近の会議室で研究会を開催することを計画したのである。しかしコロナウイルスの蔓延のために杏雨書屋が3月半ばから当分閉館することになり、そこに所蔵される文献が閲覧できないことになった。そのため、大阪で開催する予定であった研究会を変更し、京都に場所を移して開催することにした。すなわち、第二日は予定通り開催し、第一日は杏雨書屋に見学する予定だった午前中の研究会をキャンセルし、午後の研究会だけを京都で開催することにした。このような予定変更とともに、参加者の一人の吉本秀之氏は、第一日の前日に宿泊する予定だったが、その宿泊をキャンセルし、第一日の午前中に東京から京都に移動することになった。大阪で開催しないことを決定したのが年度末に近かったために、その宿泊代金に相当する金額を年度内に使用せず翌年度に繰り越すことになった。以上が次年度使用額が生じた理由である。
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Research Products
(10 results)