2020 Fiscal Year Research-status Report
近代以降の科学技術医学の学術文献に掲載される図像に関する歴史研究
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19K00266
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橋本 毅彦 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (90237941)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 祐理子 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (30346051)
河野 俊哉 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 学術研究員 (40600060)
吉本 秀之 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (90202407)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 科学史 / 化学史 / 図像 / X線回折 / 原子 |
Outline of Annual Research Achievements |
橋本は昨年度に引き続きX線回折の分子科学研究への応用について検討し、初期のブラッグ父子らの研究からタンパク質など有機化合物の高分子構造決定の研究における視覚表現技法について調査した。ブラッグらとは対照的に、米国のポーリングは原子の大きさや原子間距離の推測値に基づき具体的な分子模型を活用して分子構造を突き止めた。ブラッグらとポーリングを比較しつつ、彼らの分子構造解明の研究と視覚表現技法について検討し、その研究成果を7月の化学史学会のシンポジウムで講演発表し、『化学史研究』の2021年3月号に発表した。そこではポーリングの研究過程における図像や模型工作の意義と効用、ポーリングとの画家ヘイワードとの協力関係に関する最近の研究などを紹介した。以上の研究とともに江戸時代の本草図譜について検討した。また近年の科学史研究における図像の利用についての研究文献を紹介する解説論文を『科学史研究』に出版した。 吉本氏は中世から近代初期にかけての錬金術の象徴的な図像、リバヴィウスの著作の各種実験装置の図像について検討し、近年の歴史研究を参照しつつ、それらの描かれ方、以前の文献で掲載図との関係などを分析した。またデカルトの著作に使われる図像についても検討し、それが後継者によって利用される様子を明らかにした。田中氏は原子の存在を実証しようとする試みの中で可視化の役割を追いかけ、特にペランの研究に注目してその内容と意義を分析した。河野氏は宇田川榕庵の著作における化学実験装置の図に注目し、そのヨーロッパの原典の図と比較検討した。そしてラヴォワジェらの著作に掲載される図が利用されていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度には予定通り3回の研究会を開催したが、すべてオンラインの会議で開催した。そのうち1回は学会のシンポジウムとして開催した。7月の化学史学会の「科学史における図像」と題したシンポジウムにおいては、田中氏が「原子の可視化・再考」、橋本が「ポーリングとブラッグの分子構造研究と視覚表現技法」、河野氏が「『舎密開宗』周辺の図像とラヴォワジェ前後の西欧化学史」、吉本氏が「化学文献におおける図像」と題して講演発表した。9月の研究会では、橋本が近世までの日中の本草書の植物図譜について、吉本氏が初期近代の原子と真空の図像表示について、田中氏と河野氏は引き続き7月の講演のテーマについて発表した。9月の研究会では英ケンブリッジ大学の楠川幸子氏にオンラインで参加し「時間と図像」というタイトルで講演して頂くとともに、研究参加者4人の講演に対しても有益なコメントを頂いた。3月の研究会では、美術史を専門とする寺田寅彦東大総合文化研究科教授に19世紀における版画印刷出版の事情と技術について講演頂くとともに、同研究科大学院生の渡邊香里氏に写真技術の天文学研究への応用について話題提供して頂いた。4人の研究会参加者は9月の講演のテーマでの研究内容を引き続き発表した。参加者の研究成果の公表については、橋本が研究動向を紹介した解説論文を『科学史研究』に出版し、橋本と吉本氏が『化学史研究』の新シリーズ「図像科学史」に論文や記事を出版した。
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Strategy for Future Research Activity |
橋本は、2020年度で携わった分子科学の歴史と内外の植物図譜の歴史を引き続き追いかける予定である。分子科学の歴史については、ブラッグ父子らの研究グループによるX線回折像の分析において分子構造を推測するための手法について検討するとともに、ポーリングが活用した分子模型の利用のされ方についても検討する。 田中氏は、昨年度までの研究成果をまとめ、20世紀以来の原子の可視化に関わる論理と技法の変化を、「理論的思考と可視的現象の結合」が進んだ時期と、「画像作成技術の飛躍的発展とその論理的解釈」が主要な論点となった時期とに区分しつつ、通史的に整理する論文を執筆する。吉本氏は、引き続き初期近代の真空・原子などの図像表現、錬金術・化学の器具などの図像表現について調査研究を続ける予定である。河野氏は、引き続き宇田川榕庵が執筆した『舎密開宗』に掲載された図像と引用元のヨーロッパの科学書の図像の比較検討と、その研究成果を論文として出版し、それに加えて野口英世の医学研究における図像について分析する予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度はコロナ禍ですべての研究会をオンラインで開催したが、旅費を物品費で使用することになったが、年度末にも旅費を使用する計画をもっていたため、次年度使用額が生じることになった。2021年度においては物品費で使用する予定である。
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Research Products
(13 results)