2021 Fiscal Year Research-status Report
History of Intellectual Disability in the United States: Medical Development and Citizenship
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19K00268
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
小野 直子 富山大学, 学術研究部人文科学系, 教授 (00303199)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アメリカ / 知的障害 / 断種 / 婚姻 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、アメリカにおける知的障害者の生殖の権利と婚姻の権利について焦点を当てた。まず、大恐慌からニューディール期における断種政策の変容過程を、知的障害者像の変化及び福祉政策と関連付けて明らかにした。その時期には、経済的に困窮した家族から特に重度の知的障害者の公立施設収容への需要が高まり、施設長たちはそれに応じるために、すでに過密な公立施設から軽度の収容者を退所させてコミュニティでの生活に適応させるという理由で、「選択的」断種手術を実施した。他方で、実際には経済的状況が厳しい中で、就労先がなくて施設から退所させることができない収容者に、可能な限り「普通の」社交生活を送らせるためということで断種手術は実施された。「専門家」にとっても、自宅で知的障害者のケアをする親族や後見人にとっても、断種は産児制限の方法として正当化され得るものとなり、軽度知的障害とされた人々がそれを利用することもあった。そうしたことが、1930年代に断種実施数が増加した要因であった。 また、知的障害者の婚姻の権利に対する認識の変化と、その前提としての知的障害者像の変化を明らかにした。アメリカでは初期から知的障害者の婚姻に関する法的制限が存在していたが、その対象となるのは少数であり、一般にそれほど重度ではない知的障害者には権利の行使が認められていた。しかし、優生学の台頭は、知的障害に対する国民の意識を大きく変えた。知的障害は遺伝性で、さまざまな社会問題の原因と見なされるようになり、その生殖を制限することが目指された。その方法のひとつが、知的障害者の施設への隔離であった。しかし、すべての知的障害者を施設に管理することは非現実的であったため、施設外の知的障害者の生殖を防止する方策として提案されたのが婚姻制限であった。婚姻制限の有効性は当初からあまり期待されていなかったが、法律はその後も長く維持された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、19世紀から20世紀にかけてのアメリカにおける権利に関するいくつかの具体的事例を取り上げ、知的障害者からそれらの権利を剥奪すべきか、あるいは付与すべきかをめぐって展開された議論を分析することにより、市民としての権利を行使するためにどのような能力や特性が必要とされてきたのかを、歴史的に明らかにすることを目的としている。2021年度は具体的事例として婚姻の権利と生殖の権利について検証し、それらを論文として公表したので、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、知的障害の診断技術と治療技術の発達に焦点を当てる。知的障害は「社会的構築物」であり、その意味は、政策や実践に従事する人々、またそうした人々を包含する社会的文脈の中で形成され、変化していくものである、ということである。「専門家」の診断技術や治療技術の発達によって、知的障害と分類される人々がいかに誕生し、変容していったのか、またそのような人々に対する介入がどのように行われたのかを歴史的に明らかにする。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、史料収集や学会参加等のために計上していた旅費を使用することができなかったため、残額が生じた。今後移動制限や図書館利用制限が緩和されることが見込まれるため、次年度史料収集等に使用する予定である。
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Research Products
(4 results)