2019 Fiscal Year Research-status Report
Japan-US Comparison of Nuclear Power Plant Visitor Centers: Exploring the Features of the Communication
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19K00280
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
長谷川 一 明治学院大学, 文学部, 教授 (70401239)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三河内 彰子 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 特任助教 (20838453)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 原発PR施設 / コミュニケーション / 原子力と社会 / テーマパーク化 / エンタテインメント型展示 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の課題は、これまでほとんど取りあげられてこなかった原発PR施設を対象として、メディア論の立場からその実態を把握し、国際比較を通して、原発PR施設におけるコミュニケーションを多角的に検討し、その特質を明らかにすることにある。そのことを通して、原発PR施設という場を媒介に、原発と人びとがいかに結合あるい は切断されているかを把握し、全ての人に開かれた議論の場の構築への一助としたい。このような問題意識にもとづき、第1年度にあたる2019年度は、主に文献調査と第1回のアメリカ現地調査を実施した。 文献調査では、アメリカにおける原発PR施設の現況を俯瞰的かつ網羅的に把握することをめざした。PR施設や原子力広報にかんする文献を渉猟するとともに、インターネット上の情報も含めて、アメリカ国内に存在する施設のひとつひとつについて調べあげた。そして、全米に散在する諸施設の情報を所在地ごとにプロットし、詳細な地図にまとめた。この地図をもとに調査計画を立案し、2019年8月から9月にかけて第1回アメリカ現地調査を実施した。調査地域はアメリカ本土の南半分にあたる14州(CA, NV, NM, TX, LA, MS, AL, GA, TN, SC, NC, KY, IL, MI)で、20か所以上の施設を訪れて実見した。調査対象施設には、原発PR施設のみならず、原子力関係の博物館や大学付属原子炉など隣接施設もくわえたことにより、アメリカにおける一般向けの原子力関係のコミュニケーションの様相について多角的に観察することが可能になった。 これまでの調査結果から、アメリカにおける原発PR施設は、全体として日本のそれに比して質量ともきわめて乏しいことが明らかになってきた。電力事業者は現在、原発PR施設の運営にあまり熱心ではない、あるいはもはやその余裕を失っているらしいことが示唆されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度研究計画の柱は、①文献調査、②第1回現地調査、③中間的成果の発表であり、おおむね計画どおりに調査研究活動を進めることができた。 文献調査では、全米の原発PR施設地図を作成することができたのが、大きな成果だった。日本では不十分ながらも電気事業連合会が原発PR施設リストを公開しており、粗くではあるが概観できる。これにたいして、アメリカにはこのような叩き台となりうるリストさえ存在しなかったからだ。第1回現地調査も実り多かった。現地の展示調査の成果はもちろん、それ以外にも収穫があった。文献調査時点では古い情報も少なくなく、また現地への連絡手段が不明であるなどの理由で、現存確認さえできない例が散見されたが、実際に現地へゆくことで、その実相を明らかにできたことである。また成果の一部は以下の形で発表された。論文「原発PR施設とは何か――電事連から日帰り温泉まで」(『藝術学研究』29号)、国際学会発表2件: "The Theme Park of Nuclear: An Exhaustive Survey on Nuclear Power Plant Visitor Centers in Post-Fukushima Japan" (The Nordic Association of Japanese Studies, Turku, Finland), "The Paradox of Nuclear Tourism: Nuclear Power Plant Visitor Centers and Local Communities in Post-Fukushima Japan" (Inter Asian Cultural Studies, Dumaguete, the Philippines) 。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は計画どおり、前年度の成果を踏まえつつ、アメリカ本土北半分に点在する原発PR施設を対象として第2回の現地調査を行う。実施時期は前年度と同じく夏季(8月から9月ごろ)を予定している。ただ、実施の可否についてCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)という不安材料がある。本報告書の執筆時点である2020年5月1日現在、日本もアメリカも緊急事態宣言の発令下におかれており(アメリカは全州一律ではないが)、日米間の渡航は制限されている。また現地で調査対象となる諸施設も閉鎖されている模様である。こうした状況が夏までに改善されていれば予定通り調査を実施できるだろう。具体的には、①アメリカへの渡航制限が解除され、入国後の自主隔離期間が撤廃されていること、②調査対象となる現地の諸施設が通常の業務状態へ復帰していること、③その他安全に調査が遂行できる環境に戻っていること、の3つの条件がクリアされている必要があると考える。しかしながら、現時点では状況は不透明であり、はっきりとした見通しを立てることは難しい。状況の推移を見守りつつも、平行して、万が一今年度計画通りに現地調査が実施できなかった場合を想定したバックアッププランを準備し、柔軟に対処できるよう準備を進めたい。
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