2020 Fiscal Year Research-status Report
遺伝学・ゲノム学と〈人々の形而上学〉との関係をめぐる概念分析の社会学
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19K00281
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
加藤 秀一 明治学院大学, 社会学部, 教授 (00247149)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 社会学 / 生命倫理 / 形而上学 / ひとの同一性 / 生殖技術 / 遺伝子技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、遺伝学・ゲノム学の成果が〈人々の形而上学〉にどのような影響を与えてきたか、また逆に、そもそも遺伝学・ゲノム学がいかなる〈人々の形而上学〉を土台として成立し、発展しえたのかを、各種素材・データの分析にもとづいて解明することである。全研究期間を通じて、大きく分けて3つの領域に属する各種の文書資料、映像資料、音声資料を対象とし、ひとの同一性にかかわる〈人々の形而上学〉を読み解く作業を進める。三つの領域とは、①遺伝学・ゲノム学の専門家による言説(Nature Genetics 等の代表的な専門誌、また専門家の手になる教科書等)、②各種の一般大衆向けメディア(いわゆる「ポップ科学」の書籍・記事、「遺伝子改変」や「クローン人間作製」をテーマとするサイエンス・フィクションを始めとする文芸作品や映像作品等)、③遺伝学・ゲノム学が新しい生殖技術として応用されることでさまざまな未曾有の事態がもたらされる際に、それに反応するマスメディアや一般大衆による言説群(新型出生前診断、ミトコンドリア提供、ゲノム編集、ロングフル・ライフ訴訟、「救いの弟妹」、ヒトクローニング等)。 初年度、二年度と上記作業を推し進めるなかで、目標とする〈人々の形而上学〉の全貌を明るみに出したとは到底言えないものの、鍵となる視座を確保することができたと考えている。それは、市井の言説から専門的な哲学の言説に至る共通の特徴として、倫理的配慮の対象となる「人(person)」の把握に際して、その対象者が未だ存在しない時点における未来への配慮(事前の視点)と、その対象者がすでに一つの置き換え不能な個体として存在を開始した後の配慮(事後の視点)とが峻別されないという事実が挙げられるということである。第二年度以降は、こうした見通しをより具体的な裏づけを持って論証する作業を推し進めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」に記した通り、当初計画に従って文献資料の研究を粛々と進めることはできたが、関連分野の国際学会に参加して最新研究動向を探ることは、学会そのものの延期が多かったためにほとんどできなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も当初計画に沿って文献資料の研究を進めることがメインとなる。この点では現時点では大きな変更の必要はないと考えている。第二年度も国際学会が例年のように開催される見通しが立たないことはマイナス要因ではあるが、本研究にとっては本質的な痛手ではない。作業が順調に進めば、2022年度中に成果を書籍(単著)として出版する計画がある。
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Causes of Carryover |
複数の国際学会への出張を予定していたが、すべてが延期となったため、旅費相当分を次年度使用額とした。その一部は図書費に廻す予定だが、仮に今年度も同様に海外の学会出張が不可能である場合、研究機関の延長も考慮している。
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