2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00293
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
大木 志門 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (00726424)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
掛野 剛史 埼玉学園大学, 人間学部, 准教授 (00453465)
高橋 孝次 帝京平成大学, 現代ライフ学部, 助教 (20571623)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日本近代文学 / 水上勉 / 戦後文学 / 自筆資料 / 原稿 / 書簡 / 高度経済成長期 / 知の大衆化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究の初年度ということもあり、主に研究全体の基礎固めとなるような活動を中心的に行った。当初の計画にしたがい、長野県東御市の水上勉旧居への調査を令和元年6月、7月、9月の3回にわたって実施した。同地に保管されている水上勉旧蔵資料のうち、資料の状態と重要度の観点から優先順位を付け、自筆原稿類と宛書簡類を優先して調査を行う全体方針を決定した。本年度はその手始めとして、昭和30年代半ばから50年代前半の資料を時代と分類ごとに整理し並べ直し、1点ごとに撮影と調書作成を行った。さらに現地で調査した結果を持ち帰り、データ入力して資料リスト作成を行った。この結果、本年度分で約550点、前科研費研究期間の調査分と合わせて約2,200点強の資料のデータ化が完了した。 以上により、これまで明らかでなかった水上勉の様々な文学的活動の詳細を知ることができる多くの資料が発見された。具体的には水上が「雁の寺」(1961年)で直木賞を受賞して以降、文壇で最も活躍した時代の原稿・書簡類である。特に未定稿、多くの反故原稿を含む作品の自筆原稿が多数見つかり、次年度以降に発展的な調査および結果報告を行うための目途をつけることができた。 また、本年度は水上勉の生誕100年の節目の年であり、令和元年6月にはこれまでの調査の成果発表として研究グループ3名の編による研究書『水上勉の時代』(田畑書店)を刊行するなど、多くの成果発表を行うことが出来たのが何よりの成果である。 次年度以降は、さらにいっそう資料調査を進めるとともに、周辺事項の調査を行うことで、資料の学術的意義や、位置付けを行ってゆく予定である。資料の全体像を明らかにし、その概要を積極的に公開してゆくことで、作家研究だけでなく本資料群が有する多岐にわたる研究上の可能性を引き出すことに努めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題はこれまで、その調査対象としている水上勉資料の所蔵者である水上勉遺族との協力関係のもとに研究活動を進めてきた。本年度もまた同者との関係を良好に保ち、全面的に協力してもらうことで研究活動を円滑に継続することができた。水害の影響で現地までの交通が一時途絶したため、当初計画していたより1回分現地調査の回数を減らさざるを得なかったが、調査および撮影作業に手慣れてきたこともあり、少ない調査回数の中でも多くの資料を整理しデータ化することができた。前回の科研費研究課題の期間をあわせて、これまで調査を終えてデータ化した資料点数は2,200点を超え、想定していた以上の重要な資料を多数発見することができた。 本年度は何より、作家の生誕100周年に合わせて出版物や論文、発表等で多くの成果を公開することができ、またそれらが学会やメディア等でもたびたび話題になったことが最大の結果である。まず令和元年6月には資料調査や関係者への聞き取り調査の成果が元になった研究書『水上勉の時代』(田畑書店)を研究グループ3名の共編著として刊行し、また9月にはこの期間に記念展示が開かれた福井県ふるさと文学館との共催による学術シンポジウム「水上勉の時代」を同館にて開催し、研究グループの研究発表と作家遺族も含めたディスカッションを行い、多くの観客を集めることができた。さらに10月には第14回日本編集者学会セミナー「生誕百年 没後十五年 水上勉の知られざる世界」に研究グループのメンバーで登壇し、ここでは主に出版・編集の側面から作家およびその資料の価値を明らかにすることができた。 今後も同様に資料調査の計画を立てていることと、さらに様々な形で成果を公開できる目処も立っていることから、今年度の研究課題の達成度を上記の結果のように評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題がその研究の対象としている水上勉旧蔵資料には、主なものだけで5,000点を越える点数が存在することが想定されている。当該資料の整理・撮影・データ化の作業は昭和30年代後半までの資料がおおむね完成し、令和3年度は昭和40年代以降の資料を中心に整理・撮影・データ化を進める計画である。当初見込んでいた以上に膨大な、かつ重要な資料が存在するため、前年度よりも出張調査の回数を増やして多くの資料を調査し、データ化を推進する予定である。 なお、本年度までに整理・撮影・データ化した書簡のうち、水上勉宛の一部書簡については既に翻刻・解析作業を完了しており、その成果は学会誌等で発表している。今後も水上との関係や戦後文壇の問題を考察するにあたり重要と思われる文学者や文化人の書簡を優先的に翻刻・解析作業を進め、水上勉を中心とした作家たちの人的ネットワークを把握するとともに、戦後文壇の形成や広がりなどを検討してゆく。 また調査の過程で、異稿を含む代表作の草稿類が多数見つかり、このうち社会派評伝『金閣炎上』(1979年)の初期稿についての調査結果と分析を公開することができた。次年度は水上が私小説連作『フライパンの歌』(1948年)で文壇に登場し、社会派推理小説『霧と影』(1959年)で二度目のデビューをするまでの文壇的空白期に書かれ、未発表のまま残された小説の草稿について、生成論的なアプローチから、その後の創作とつながる作家の方法の過程を明らかにしてゆきたいと考えている。 また、今年度は準備段階にとどまったが、生前の水上を知る人物たちへの聞き取り調査を再開する計画である。また研究協力者の劉晗氏を中心に、戦前に国際運輸社の社員として満州に渡って働いた時代の水上の足跡を跡づけるための調査の準備を開始する予定である。さらに、昭和30年代半ばの社会派推理小説作家時代の作品についても調査を進めている。
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Causes of Carryover |
2019年夏の大規模水害により調査先に向かう鉄道が寸断されたため、秋以降の調査出張を見直さざるを得なかった。次年度は出張計画を再検討し、適切に予算を消化する計画である。
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[Book] 水上勉の時代2019
Author(s)
大木 志門、掛野 剛史、高橋 孝次
Total Pages
336
Publisher
田畑書店
ISBN
9784803803600
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