2021 Fiscal Year Research-status Report
中古中世仮名文学の本文資料に関する多様性の再評価を目指した文献学的研究
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19K00304
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
久保木 秀夫 日本大学, 文理学部, 教授 (50311163)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 古典籍 / 写本 / 古筆切 / 和歌文学 / 中古文学 / 中世文学 / 文献学 / 書誌学 |
Outline of Annual Research Achievements |
中古中世仮名文学に関する個々の伝本・本文の多様性を明らかにするため、3年目に当たる令和3年度も、種々の事情により見逃されてきたり、存在自体が知られていなかったりしてきた原本資料、及び関連資料の調査研究を実施した。 本年度の収穫としてまず挙げられるのは、板橋区立美術館寄託の古筆手鑑2点である。仮名文学の伝本・本文研究に益する古筆切複数を、同手鑑から見出し得た。現在リスト作成や記載内容の調査などを進めている。 もうひとつ、本年度集中的に、百人一首・百人秀歌の伝本・本文研究にも取り組んだ。とりわけ代表者が長年かけて資料や情報を収集してきた、伝京極高秀筆の古写断簡につき、関連資料と合わせて論文化した。 ほか昨年度の研究成果から派生しての源氏小鏡の成立時期問題や、同物語・大島本の奥書問題、中世名所歌集2種の特徴、戦国時代の文化人たる大村由己作『梅庵古筆伝』の独自記載、等々についても論文化した。かつその過程で、これまで贋作かともされてきた、神奈川県立金沢文庫蔵の下官集・源親行奥書本の再評価をも学界に提示することができた。 本年度もまたコロナ禍により、実地調査に赴くことがほぼ適わなかった。よって代わりに、令和4~5年度に向けての研究環境を整えるべく、モバイルPCを最新機種に交換し、情報処理等の作業の迅速化・高速化を図った。また未詳詠草の古筆切1葉―新後拾遺集の完存しない応製百首、永徳百首の一部かと推測される―を購入し、所属の大学図書館に収蔵した。それをもを含め、当該研究によって集積してきた原本資料類、特に古今集や新古今集、伊勢物語や源氏物語、未詳歌書類等についての調査研究を、現在も進めているところである。 なお12月には、名古屋大学国語国文学会シンポジウム「平安朝文学研究の現在」に招待されたため、当該研究と密接に関わる「平安文学研究の深化のためのインフラ整備」という報告をも行ってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該研究では何より原本資料の実地調査が重要であるが、現任校において教育や種々の職務に携わる身として、罹患の可能性を極力小さくするために、昨年度同様、本年度も実地調査は自粛することとした。神宮文庫、京都大学附属図書館、天理大学附属天理図書館、広島大学附属図書館、オーテピア高知図書館、九州大学附属図書館その他の、全国各地に収蔵される原本資料の書誌・内容情報を実地に得られなかったのは、小さからぬ痛手となった。 ただし辛うじて、コロナ禍以前における原本資料・関連資料についての調査研究の蓄積が相応にあり、また昨年度まとめて作成しておいた未刊・未翻刻等の複写資料も少なからずあったため、完全新規とまでは言えないにしても、昨年度末までに取り組めていなかった諸資料の整理や翻刻、校合、研究などを代替として進めていく方向にシフトした。 一例を挙げれば、定家仮託書とされてきた『桐火桶』の原態的なものにして、あるいは定家撰と認め得るのではなかろうか、と類推される秀歌撰などである。あるいは古筆切所収情報データベースの更新用データについての、人件費を用いての取りまとめなどである。 以上によって、研究をほとんど進められないという事態は回避でき、かつ質量ともに、ほぼ例年どおりの研究業績を学界・社会に広く公表していくこともできた、とは言えそうである。それでもコロナ禍以前に予定していた計画どおりの成果が得られた、とまではやはり言い難い。やはり実地に採取した書誌情報を同時に記載できない限り、どれほど重要な原本資料であったとしても、翻刻なり影印なりでの紹介や、それに基づいての考察などはなかなかしにくいところであるし、極力控えるべきとも思われる。よって遺憾ながらも、自己認識としては「やや遅れている」と判断している次第である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度において、ある程度の移動が可能となり、また全国各地の所蔵先でも閲覧が可能となれば、機を逸さず、積極的に遠近各地に実地調査に赴き、原本資料の発掘・確認・調査・研究を遂行していくようにしたい。そうすることで、これまでの遅れた分を取り戻したい。結果、学界への報告に耐え得る段階まで進められれば、積極的に学会発表や論文化などを行っていきたい。 ただしコロナ収束の気配が現時点でいまだはっきりとしておらず、本年度も実地調査を控えるべき、という事態に陥った場合には、昨年度同様、書誌調査を後回しにして、複写物を先に作成し、記載内容の調査を進めていくこととしたい。と同時に、近年続々と公開されていくweb上の古典籍の高精細全丁デジタル画像などをも、あらためて調査対象として、一から調べ直していくことともしたい。すでに現時点でも複数の注目すべき画像を見出だせているため、再点検していけば、必ずや多くの重要資料が見出されることと確信している。 またコロナ禍以前の当初計画で、新たに調査対象としてみたいものとして、いわゆる年代記類を挙げていた。これも少しずつ複写資料・関連資料が集まってきているため、そろそろ詳しい調査研究を始めてみたい。なおこれまで継続的に進めてきている書籍目録類についても同様である。 加えて、これも当初計画のうちのひとつで、作品別・ジャンル別といった以外に、年代別といった整理をも、実験的に行ってみることを考えたい。現在までの感触では、中世の、特に嘉吉・文安年間などが要注目である。換言すれば、言わば年輪を見るように、とある限定された年代に制作・書写・刊行された原本資料を見渡してみると、ジャンル別・作品別といった標準的な分類等では様々な繋がりが浮かび上がってくるのではないか、と予想されている。 コロナ禍の影響を依然被る場合には、このような方向性で対処したいと考えている。
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Causes of Carryover |
何よりもコロナ禍における移動制限が挙げられる。より具体的には、とりわけ教育職に就いている者としての責務上、極力罹患を防がなければならず、結果として、原本資料の実地調査に赴くことを自粛したことが最大の理由である。 ただしもうひとつ付け加えれば、現任校で2021~22年度、学科主任を務めており、その職務に想定以上の時間を費やさざるを得なかったことも挙げざるを得ない。とりわけコロナ禍という非常時においては、自ずと過去のルーティンだけではどうにもならない、新たな問題が毎日のように発生し、前例のない対応を求められ続けてきた。よって現実的に、大学を離れて実地調査に行くどころか、そもそも研究時間の確保自体が極めて厳しかったという現実的な事情も確かにあった。なお、令和4年度においてもなお1年、主任業務は続いていくが、2年目となりある程度は効率化や時間の節約ができるようになるはずであるため、当該研究に費やす時間も可能な限り確保するようにしていきたい。 それに伴い、各所蔵先の閲覧態勢―とりわけ原本調査に関する制限の解除等―にもよるが、閲覧可とされた場合には、効率的な調査計画を立案し、原本調査を可能な限り再開したり、研究推進に不可欠と判断された原本資料の撮影や複写物を作成したり、その他新たに必要となってくる設備や情報を整えたりと、当該研究費を最大限に活用していく所存である。
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Research Products
(8 results)