2023 Fiscal Year Research-status Report
成島信遍研究―幕臣文人の事績を通して見る近世中期江戸文壇の特徴―
Project/Area Number |
19K00322
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
久保田 啓一 広島大学, 人間社会科学研究科(文), 教授 (80186452)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 成島信遍 / 冷泉為村 / 江戸冷泉派 / 久遠寺 / 毛利重就 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き、成島信遍の伝記研究を年譜稿という形で行うとともに、信遍の属する 江戸冷泉派の歌壇の全国的な展開の一環として、冷泉家と長州藩主毛利重就との密接な関係を資料に基づいて明らかにする論文を発表した。毛利家の資料から窺えることは、冷泉為村にとって、毛利家のような規模の大きい外様大名を門人として招き入れることは、冷泉家の経済への寄与が極めて大きく、重就を顧客として丁重に遇する姿勢が顕著に見られるという点である。宗匠である為村より門下の重就の方が立場が上であるという認識を得たことで、これまでの文学研究で当然のように語られていた文学至上主義が幻想にすぎないことを改めて実感するに至った。 また、江戸の冷泉派武家歌壇と俗文芸界の接点を、大田南畝を中心に据えて観察する試みも形を成した。南畝が成島信遍以下の冷泉門の幕臣達に限りない憧憬を抱き、和文の会への参加を慫慂した意図を推測する中で、従来南畝の文名に惹かれて南畝のもとに集まったと見られた和文の会の見方を根本的に改める必要性を述べたのは、近世文学研究に大きな影響を与えたと考えている。 信遍の伝記研究は、寛延2年(1749)61歳までの事績をまとめた。特に身延山久遠寺の住職日潮との交流について、新たな知見を得たことの意義は大きい。 幕臣文化圏と大名家との関わりについては、佐久市池田家の伝存文書調査を継続して行う中で、岩村田藩内藤家関連の文芸資料その他を多数見出し、改めて地方に散在する資料の調査の重要性を痛感したところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度からの3年間、新型コロナ流行のため、東京その他の図書館・資料館等での調査収集が行えなかったことの影響が大きい。長野県佐久市の池田家資料調査のみは継続して実施できたが、基幹となる資料の調査が不十分のため、研究の取りまとめに支障が出た。1年間の延長が認められたので、信遍の終焉までの年譜作成に全力を尽くし、可能な限り年譜の公表に従事したい。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は東京の国文学研究資料館ほかの調査収集に従事するとともに、年譜稿の既発表分の取りまとめと、新たな事項の執筆にかかる。出来れば出版という形での公表に踏み切りたい。
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Causes of Carryover |
2020年度からの3年間、東京などでの資料収集ができない状況にあり、旅費やその他の費目が大幅に残ったので、次年度までの延長を申請した。 国文学研究資料館や国立国会図書館、国立公文書館内閣文庫等への資料調査の旅費、信遍に関する典籍・文書資料の複写に使用し、関連論文の電子化などに使用して、信遍年譜の取りまとめを行い、出版への道筋をつける。
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