2022 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19K00327
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
渡瀬 淳子 北九州市立大学, 文学部, 教授 (90708637)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 笠家文庫印 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は当初より継続して行っている北九州市立いのちのたび博物館の小笠原文書調査を行い、ほぼ全ての典籍の調査を終えた。また、小笠原家から流出した書籍の調査のため、国文学研究資料館、国会図書館、内閣文庫、法政大学能楽研究所で書誌調査を行った。 関連する科研である「近世において文庫を創設・形成した大名に関する総合的研究」の総括大会と、「歴史の文体研究会」で研究成果の発表も行った。「近世において文庫を創設・形成した大名に関する総合的研究」では、研究分担者として調査に入った島原市の肥前松平文庫との比較を通して、小笠原家の蔵書構成の特殊性や、礼法の家としての性格を報告した。「歴史の文体研究会」では、蔵書印の問題を中心に報告した。 現在残されている小笠原家の蔵書は、藩主の個人的なコレクションと、領国である小倉城や江戸や京都の藩邸に残された小笠原家という家の蔵書、藩校の蔵書で構築されている。現在残っている本は礼法に関するものと小笠原家の家系に関するものが中心だが、それらの本のほとんどには蔵書印が押されていない。蔵書印が押されている本はごく一部だが、流出したものが多い。小笠原家に残された本で蔵書印が押されているのは『和伝鷹経』と『武家年中行事』の二点のみで、他の本には蔵書印の押されたものはなかった。この二点のうち、『和伝鷹経』は豪華装丁だが、『武家年中行事』は質素な青地の紙表紙に料紙は楮紙で実用向けの装丁に思える。本の格式や装丁の美しさと蔵書印の有無は関連性が薄いようである。実際、小笠原流の礼法や武芸の伝書など豪華な装丁で仕立てられた本は多くあったが、それらには蔵書印はなかった。 こうして見ると、蔵書印の有無は小笠原家にとっての本の重要性とは無関係なように思える。主に藩主の手元で愛蔵された本に押した極めて個人的なコレクションの印であった可能性も考えられる。以上の内容を報告し、専門家の意見を仰いだ。
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