2020 Fiscal Year Research-status Report
〈文芸としての覚書〉に関する資料学的基礎研究:文禄・慶長の役関連文献を中心に
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19K00330
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
鈴木 彰 立教大学, 文学部, 教授 (40287941)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日本中世文学 / 〈文芸としての覚書〉 / 中世近世移行期 / 文芸環境 / 文禄・慶長の役 / 壬辰倭乱 / 軍記 / 語り物文芸 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、16世紀後半にさまざまな戦場を体験した武士とその子孫たちが、主に17世紀以降に記した〈覚書〉と呼ばれる資料群を主な分析対象とし、その伝存状況の把握と文芸資料としての意義の解明と定位を目的としている。本年度は、昨年度までに得た展望を踏まえ、関連資料の調査と研究打ち合わせを目的として、国内外での資料調査を予定していたが、コロナ禍の影響が続き、調査出張の計画は大幅に縮小せざるをえなかった。海外調査はすべて中止、国内ではわずかに、鹿児島県歴史・美術資料センター黎明館、佐賀県立名護屋城博物館、大阪大学総合図書館などに赴いたのみとなった。調査先では、資料の原本等を閲覧し、書誌情報を記録し、デジタルカメラで撮影した。また、佐賀県立名護屋城博物館では、2020年9月18日~11月8日に企画展「「鬼島津」が遺したもの――島津義弘と文禄・慶長の役――」が開催されたが、同企画展を担当した学芸員村松洋介氏が、展示の一部に、本研究課題の一環として、氏と同行するかたちで2019年度におこなった韓国・南原市での実地調査・資料調査の成果等を踏まえた内容を盛り込んでくださった。成果の社会還元が困難であったこの一年では、貴重な機会を提供していただくことができた。 出張による資料収集が困難であったため、次年度以降の対応に向けて、資料面での充実をはかることをめざし、必要な図書・論文・資料などを購入またはコピーして収集した。 また、昨年度以来継続している〈文芸としての覚書〉資料の所在確認についても、着実に情報を蓄積している。来年度にも引き続きいっそうの充実をはかる。 資料翻刻については、薩摩藩内に伝わる『諏訪の本地』の学界未紹介の伝本の翻刻を進め、すでに投稿を済ませた(2021年度中刊行予定)。その他、2020年度のうちに、本研究の成果を盛り込んだ雑誌論文を1点、公表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで、研究計画に基づいて、調査対象機関と綿密に調整を重ねながら、調査を進めてきた。しかし、コロナ禍の影響は避けがたく、調査計画が大幅に制限されたため、原典資料の調査による情報収集が停滞することとなった。ただし、実施できた調査においては、今後の資料紹介についての打ち合わせを進めたり、新たな調査先との関係が構築されたりして、今後につながる調査をおこなうことができた。また、そのなかでもいくつかの重要資料を見いだすこともでき、今後の研究にのぞむ際の視野がひろがった。 なお、昨年度、計画を変更して本年度にまわしていた福岡県立図書館での調査は実施できず、そのほか、韓国国内所々で予定していた調査や、日本国内での調査については、次年度以降に順延し、日程を調整しながら、可能な範囲で取り組んでいくこととする。したがって、これだけみれば、やや遅れている状況ということになろうが、昨年度末に、社会状況がすぐには改善されないことを見越して、4年間の総体として、当初の研究計画・目標としたものにできるだけ近い水準にまで到達することをめざして、計画の再編成をおこなっておいた。本年度は、それにしたがって、意識的に手もと資料の充実に取り組んだ。その資料的な環境を活かして、次年度からの分析に活かしていくつもりである。 予算面では、とくに旅費の面での支出がかなり抑えられたが、その分、図書やコピーを入手することに重点をおいたため、その方面の費用が大きくなった。次年度以降の活動での有効な活用を心掛けるつもりである。 以上により、総体としてみれば、おおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
社会状況がどのように推移するかにより、実現できることに大きな違いが生じることはいうまでもないが、まずは本年度から延期された調査と分析に取り組み、あわせて当初の計画通り、各機関に赴いて資料収集を進めていくつもりである。また、すでに収集した資料の分析にも継続して取り組み、これまでに得た理解を深化させる。 なお、昨今の特殊な社会状況への対応に伴い、旅費の執行をはじめとして、2021年度の調査計画を見とおすことがたいへん困難な状況にある。とはいえ、当面は当初の計画どおりに調査を行うことを予定しておき、その時々の社会状況に照らして、適宜スケジュール調整をしながら対処していく。 資料の所在確認および翻刻については、これまでどおりに進めていく。また、研究集会の開催による成果報告・社会還元についても、年度末の三月に鹿児島県歴史・美術資料センター黎明館で開催予定の会にて、本年度と同様の方法で取り組む予定である。 これまでにも、分析をとおしてさまざまな事実が明らかとなってきている。そうした本研究の成果にあたる事柄については、論文・学会発表などの形で、随時公表していく。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響で、出張がほとんど実現できなかった。そのため、国内・海外出張旅費が大きく抑えられる結果となった。併せて、国内外での調査後の資料整理や、資料翻訳、助言などのアルバイトや謝金の費用がおさえられることとなった。また、三月に予定していた研究集会が本年度も延期となり、その際の講師謝金もかからなくなった。これらの理由により、次年度使用額が生じる結果となった。 2021年度においては、社会状況に照らして、調査をできるだけタイミングよく、効率的に行うこととしたい。前年度までに実施できなかった訪問先を適宜2021年度の予定に組み込み、調査の展開と充実を図る。また、今後しばらくはコロナ禍の影響が続くことが予想されるため、2021年度もまずは社会状況からの影響が比較的小さい資料複写代や物品費を利用して、本研究のための資料的環境を充実させることに重きをおき、その分析を進める。併せて、その過程で必要不可欠な基礎作業・翻訳などに伴うアルバイト代・謝金なども用いることとしたい。成果報告については、例年行ってきた3月の鹿児島での研究集会を計画している。
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Research Products
(2 results)