千厓文庫所蔵資料を中心とした近世聖徳太子伝資料の研究

2019 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 19K00338
• Research Institution: Nagasaki University of Foreign Studies
• Principal Investigator: 松本 真輔 長崎外国語大学, 外国語学部, 教授 (60816841)
• Project Period (FY): 2019-04-01 – 2024-03-31
• Keywords: 聖徳太子 / 伝記 / 近世文学 / 千厓文庫

Outline of Annual Research Achievements

2019年度は、早稲田大学中央図書館千厓文庫所蔵の近世聖徳太子伝の書誌的調査を開始した。『太子伝玄語記』『皇太子行状記』『(三国伝来仏法開基)聖徳皇太子伝(十巻之内抜書)』『上宮慈視録』『聖徳太子伝抄』『河内国上太子磯長山縁起』等の資料を確認し、このうち『太子伝玄語記』については「資料紹介：早稲田大学中央図書館千厓文庫蔵『太子伝玄語記』（一）」（『古典遺産』69＊2020年内刊行予定）で紹介予定で、同書の書誌的紹介と本文の翻刻を行った。なお分量が多いので、今号は前半、次号に後半を掲載する予定である。『太子伝玄語記』は現在のところ千厓文庫でのみ知られる写本で、奥付がないため作者や成立年代未詳であるが、内容からは近世の聖徳太子伝と思われる。所々口語的な文言が挟み込まれており、また抜け落ちた箇所に後から書き入れるなど、草稿的な色彩が濃い。本文で用いられる用語などから浄土真宗系統のものかと思われ、親鸞『皇太子聖徳奉讃』の引用などが見られる。近世聖徳太子伝はほとんど研究の進んでいない分野なので、本書がその中でいかなる位置を占めるのかなどは不明な点も多い。
また、『アジア遊学』（勉誠出版、2020年内の刊行予定）に「〈環境文学〉から見た四天王寺移転説」と題する本研究に関連する論考を掲載する予定である（原稿提出済）。四天王寺移転説の変遷を資料的にたどり、その際に近世聖徳太子伝にも言及した。今回の研究課題は資料調査が中心となるが、関連する近世聖徳太子伝（特に『聖徳太子伝暦』の注釈）なども含め、中世聖徳太子伝からの展開も考える必要がある。今後も、研究の目的の一つでもある、時代を串刺しに出来る聖徳太子伝の有り様を明らかにしていきたい。

Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

本研究は、千厓文庫（早稲田大学中央図書館）所蔵資料を中心とした近世聖徳太子伝の資料学的基礎調査を目的とするものである。研究作業の流れとしては、当該資料の書誌的調査を行い、順次資料紹介を行っていくことになり、2019年度は数度の調査を行った。また、翻刻作業として『太子伝玄語記』をとりあげ、翻刻資料として2020年度刊行予定の古典遺産の会編『古典遺産』に論考を掲載する。また、2020年度内に刊行予定の『アジア遊学』（勉誠出版）にも「〈環境文学〉から見た四天王寺移転説」と題する本研究に関連する論考を掲載予定。

Strategy for Future Research Activity

本研究は資料学的基礎調査を目的とするもので、基本的な作業の流れは前年度と同様である。ただ、周知の通り、今年度前半は伝染病流行のため国内移動が大幅に制限される可能性があり（2020年4月現在、見通しがたたない）、文献調査という本研究の性質上、進行に支障をきたす恐れがある。『太子伝玄語記』については、後半の翻刻作業を進める予定である。