2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00342
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
土佐 朋子 佛教大学, 文学部, 准教授 (00390427)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 懐風藻 / 亡名氏「歎老詩」 / 白雲書庫本 / 拈華微笑 |
Outline of Annual Research Achievements |
①連載中であった「懐風藻校本」が完了した。これまで調査・収集してきた伝本をはじめとした関連資料に基づき、懐風藻本文に関しては、最新の成果を公開することができた。版本書入や江戸期に刊行された詞華集や史書に引用された本文の情報も記載した。昭和32年の大野保氏作成の「校異篇」(『懐風藻の研究』三省堂)では得られなかった本文情報を網羅することができた。 ②『懐風藻』本文系統を考える上で、従来重視されてきた亡名氏「歎老詩」について、懐風藻成立時にはなかった本文であり、江戸期に寒山詩ブームを背景として書き入れられたものであることを明らかにした。群書類従所収の懐風藻は、唯一この詩を正式な本文として有するため、ほかの系統とは異質な系統として考えられてきた。しかし、群書類従懐風藻は、屋代弘賢校本を介して複数の本文が合体して新たに生み出された、極めて新しい本文であり、特定の系統の本文を伝えるものではない。この「歎老詩」は元禄期に、天和版本の欠落を恣意的に補って編集されたと推測される白雲書庫本(未発見)において、おそらく懐風藻序に記載の詩数に不足する収録詩数を補うべく、恣意的に書き込まれたものである。それを弘賢が自らの校本に書き取り、群書類従がその書入を正式に本文に採用したために、群書類従懐風藻のみが有するという現象が生じたのである。さらに、元禄期に「歎老詩」が創作される背景には、寒山詩ブームのほかに、拈華微笑の悟道精神を梅花に重ね合わせる七言絶句「悟道詩/探春詩」の存在があること可能性を指摘し、その七言絶句の口承的性格について明らかにした。 ③勅撰三漢詩集については、調査を徐々に始めており、今年度は多和文庫所蔵の凌雲集、文華秀麗集の写本について、本文を取り寄せ、整理を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①「懐風藻校本」の連載が完了したことは、当初の計画通りであるため。 ②亡名氏「歎老詩」が懐風藻成立時の本文ではなく、後人の書き込みではないかという指摘はすでになされてきた。しかし、根拠に基づいた決定的な結論には至っていなかった。その問題について、この詩が群書類従懐風藻にしか掲載されていない理由を、伝本調査の成果を大いに活かして明らかにし、書き込まれる時代は元禄期、背景に寒山詩ブーム、拈華微笑の精神を梅花による春の発見に重ね合わせた七言絶句の存在があったことを指摘し、従来よりもかなり踏み込んだ具体的な創作状況と、書き入れられる必然性とを論じることができた。これによって、群書類従懐風藻の本文が、考証家屋代弘賢による懐風藻校本を当時の最先端の科学的成果として無批判に受け入れ、本文を独自に編集して生み出された新しい本文であることが、より一層明らかになった。このことは、群書類従系本文と非群書類従系本文とに大別する考え方を修正することの必要があることを意味している。以上のことから懐風藻本文研究を新たな局面に進めることができたと判断されるため。 ③勅撰三漢詩集についても、調査を開始することができたため。また、本文研究は作品研究と無関係には行えない。勅撰三漢詩集についても、嵯峨天皇と有智子内親王を中心として、その作品について考察を始めることができた。今後の調査の準備も徐々に整えることができているため。
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Strategy for Future Research Activity |
①「懐風藻校本」の連載が完了したことにより、その内容を今度は使用者の立場で検証し、使いやすいように改善する。さらに「諸本解題」を作成し、「校本」と「諸本解題」とで構成する『校本懐風藻』の刊行に向けた作業に入る。令和2年度いっぱいをかけて作業を行い、年度末に刊行予定である。なお、この刊行には、令和2年度研究成果公開促進費の補助を受けることになっている(20HP5031)。 ②懐風藻については、ほぼ伝本調査は完了し、今後は①に述べたように、その成果を使いやすい校本にまとめて公開することが課題である。また、本文研究の成果を活かして、作品研究を進め、奈良朝期における文学創作のありようを明らかにしていく必要がある。今後の研究においては、この点にも一層力をいれていく。 ③勅撰三漢詩集については、可能なところから地道に伝本調査を進めていく。懐風藻伝本調査で行ってきたように、現地に赴いての調査、書誌データを集め、本文を収集し、それを整理していく作業を進めていく。
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