2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K00352
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
山本 章博 上智大学, 文学部, 准教授 (70733955)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 浄土教 / 和歌 / 西行 / 慈円 / 藤原家隆 / 祈願 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、慈円および藤原家隆を中心に浄土教関連和歌の解読を進めた。具体的には、「家隆家四十八願勧進和歌」を総合的に分析し、中世文学会大会(5月)において「「家隆家四十八願勧進和歌」と慈円」と題し研究発表を行った。四十八願勧進和歌の目的、参加者を検討する中で、特に慈円の参加の意義を論じたものである。慈円の浄土信仰は、この勧進和歌を通じて、藤原家隆をはじめとして、後鳥羽院とその近臣の歌人の間に広がっていったと考えられる。また、この勧進和歌で詠まれた慈円の四首の和歌表現を詳細に分析し、そこに西行の和歌からの影響があることが明らかになった。これについて論文にまとめ、西行学会の機関誌『西行学』に投稿した。以上の研究により、中世初期の浄土教関連和歌について、西行から慈円、家隆、そして後鳥羽院とその近臣たちへと受け継がれていく形跡が浮かび上がってきた。 この他、和歌と祈りをテーマとした2本の論文を発表した。「承久三年の慈円ー和歌と願文ー」(国語と国文学、11月)は、承久の乱の年の慈円の願文と和歌活動を分析し、慈円は乱の直前直後においても、自身の理想の実現のための祈りを願文と和歌によって執拗に繰り返していたことを明らかにした。「西行の私家集ー繰り返される編纂ー」(日本文学研究ジャーナル、12月)は、西行の複数の私家集の編纂過程を整理し、その編纂目的に和歌の復興、戦乱からの復興への祈りがあることを確認した。そして、祈願としての歌集を繰り返し編むという行為が、慈円の百首歌に受け継がれていくことを見通した。浄土教者の西行、慈円の和歌は、直接に浄土信仰を詠むのみならず、現世における理想の実現の祈りのために和歌を詠み続けていったという側面が浮かび上がってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中世初期の西行、慈円、家隆については分析が進み、相互の関連が明らかになってきている。この中世初期を中心に据えながら、平安から江戸期への流れを見通すという課題を残している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はまず、慈円「賀茂百首」の分析を行う。そこには、民間に布教する阿弥陀聖の姿が詠みこまれているように思われる。空也以来の民間で布教する阿弥陀聖の和歌の系譜が、中世の西行、慈円、一遍などにどう繋がっていくのかという問題を中心に据え、平安から中世への浄土教和歌史の流れを考えていく。その上で、中世後期から江戸期にかけての分析に進みたい。
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Causes of Carryover |
引き続きコロナ禍によって、地方図書館等所蔵資料の調査が進まなかった。次年度は状況により、複数回の資料調査出張を行う予定である。
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