2019 Fiscal Year Research-status Report
『弘前藩庁日記』演劇上演記録の研究―享保期座敷芝居の解明―
Project/Area Number |
19K00364
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Research Institution | National Institute of Japanese Literature |
Principal Investigator |
武井 協三 国文学研究資料館, その他部局等, 名誉教授 (60105567)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 歌舞伎 / 人形浄瑠璃 / 享保期 / 座敷芝居 / 弘前藩庁日記 / 藩邸記録 / 演技 / 演出 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、享保期〈1717~1736〉の歌舞伎・人形浄瑠璃の上演実態を解明することを研究目的としている。 研究方法としては、従来研究が行われてきた公的空間(劇場・芝居小屋)での歌舞伎上演のみでなく、大名屋敷という私的空間における「座敷芝居」の上演に視点をおき、演目、内容、出演役者、演技・演出等の実態を解明する。研究資料としては、弘前市立図書館に所蔵される『弘前藩庁日記』(約1,200冊)を多用する。したがって本研究で重点的に行われる作業は、弘前市立図書館において、膨大なこの資料を通読し、歌舞伎・人形浄瑠璃関係記事を抽出、該当箇所を翻刻して研究誌に掲載し紹介することにある。しかる後に記事の分析研究を行い学術雑誌に論文を発表、さらに国際学会(EAJS〈ヨーロッパ日本研究学会〉)においての研究成果発表を予定している。 令和1年度は弘前市立図書館に3回出張し、『弘前藩庁日記』享保1年~5年の調査(通読)を実施した。また、同志社大学に出張し、山田和人(同志社大学教授)および後藤博子(帝塚山大学准教授)から研究情報の提供を受け、『弘前藩庁日記』以外の藩政記録(『宗家文書』など)との比較研究が有効である事を確認した。 4回目の弘前市立図書館調査は、年度末に1週間から10日ほどの長期出張を予定していたが、新型コロナウイルスによる外出自粛のため、中止せざるを得なかった。 4回目の長期調査を中止したために、所期の成果に達することは出来なかったが、享保1年~5年の調査(通読)によって、5件の歌舞伎・人形浄瑠璃関係記事を抽出することができ、享保期以降の『弘前藩庁日記』には、歌舞伎・人形浄瑠璃関係の記録はないだろうとされていた従来の予測をくつがえすことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
享保期〈1717~1736〉は、歌舞伎・人形浄瑠璃ともに、成熟期に入る重要な時代であるにもかかわらず、研究はほとんど手つかずという現状があった。本研究で確実な成果を予測しているのは、『弘前藩庁日記』の中にある、宝永から享保期〈1705~1736〉の座敷芝居上演記録の抽出と翻刻、学界への紹介である。これは近世演劇研究者の多くが渇望している資料紹介だと言うことが出来る。 令和1年度、研究代表者は『弘前藩庁日記』江戸日記の第223巻(宝永2年〈1705〉)~第1,441巻(享保21年〈1736〉)の、全1,219冊におよぶ膨大な資料群の調査に着手した。すでに宝永・正徳期〈1705~1716〉の285冊については、申請者は粗い通読を終え、約30件の座敷芝居関係記事の存在について目処をつけていたが、令和1年度はこれらの記事の翻刻に取り組み、約10件の翻刻下原稿を完成した。 さらに研究代表者は、弘前市立図書館に出張し、享保1年~5年の分を通読し、未解明のままとなっている享保期〈1717~1736〉の、弘前藩邸における座敷芝居について調査した。この調査によって、5件の歌舞伎・人形浄瑠璃関係記事を発見した。これは、享保期以降の『弘前藩庁日記』には、歌舞伎・人形浄瑠璃関係の記録はないだろうとされていた従来の予測をくつがえすもので、大きな発見であった。 演目と役者名については、『弘前藩庁日記』の記録による研究成果を、当初より予測していたが、「小道具屋九右衛門」など、他藩の藩邸記録にも現れる役者名が発見でき、座敷芝居専業役者の動向を研究するための端緒を得た。 ただ芝居の内容と演技・演出については、『弘前藩庁日記』にはほとんど記されていないと思われ、これについては「台本」「番付」「役者評判記」「役者絵」といった資料を援用することで、その実態を探らねばならない。この点は次年度以降の課題として残した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和1年度は、年度末になって新型コロナウイルスの問題が発生し、予定した弘前市立図書館での調査を中止せねばならなかった。年度前半の調査では、享保1年~5年の分を通読し、5件の歌舞伎・人形浄瑠璃関係記事を発見していただけに、年度後半の研究の減速は遺憾であった。弘前市立図書館への出張調査4回目以降は、令和2年度、3年度に延期し、この措置によって空いた時間を、今までに発見していた歌舞伎・人形浄瑠璃関連記事の、自宅における翻刻にあてた。 当初の計画では、令和2年8月にベルギーでの開催が決定していたEAJS(ヨーロッパ日本研究学会)に参加し、「Behind the Curtains of Theater History―The Locality of Early Modern and Modern Kabuki Productions」の表題で研究成果をパネル発表し、アンドリュー・ガーストル(ロンドン大学教授)などの助言と評価を徴する予定であった。パネル発表への応募申請は、EAJSのconvenerによって採択が決定されており、このため令和1年度の予算の約半分を残して、令和2年度の海外出張旅費の足しにする目論見であった。ところが新型コロナウイルスの世界的流行のため、令和2年8月に予定されていたEAJSは令和3年8月への延期が決定された。これらの事情によって、本研究で交付される予算の多くの部分は(令和1年度・2年度の残額を含めて)令和3年度のベルギー出張旅費としての執行に予定変更せざるを得なくなっている。 本報告書執筆の段階(令和2年4月16日)において、新型コロナウイルスの世界的流行は続いている。各国は渡航禁止令や入国禁止令を発出し、事態の終息は予断を許さない。ベルギー国への出張が令和3年度になっても不可能であれば、当研究は国内諸機関での研究と成果発表に切り替えて、継続する予定である。
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Causes of Carryover |
(理由) 資料調査費の旅費執行を効率的に行ったことで経費の節約ができたため。また新型コロナウイルス流行のため、年度末に予定していた資料調査費の旅費執行を中止したため。 (使用計画) 新型コロナウイルス流行の終息を待って、海外調査のための旅費にあてる。新型コロナウイルス流行が終息せず渡航制限、入国制限が続いている場合は、国内調査の旅費に切り替えて使用する。
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Remarks |
令和1年度は研究初年度であったため、雑誌論文・学会発表・図書ともに0件であった。ただ令和1年度末から令和2年度はじめにかけて、論文「歌舞伎研究の入口と出口―索引から索引へ―」の執筆を行った。これについては、すでに『歌舞伎の出口・入口―郡司正勝先生二十三回忌追善―』(編集・発行 : 郡司正勝先生研究会、令和2年4月15日刊行)に掲載された。
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