2019 Fiscal Year Research-status Report
二十世紀中国画家の継承と創造に関する言説の文学的考察
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19K00366
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
西上 勝 山形大学, 人文社会科学部, 教授 (10189277)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 中国画 / 20世紀中国美術評論 / 継承と創造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中国の20世紀の百年間に、中国画の創作をめぐって伝統の継承と超克がどのような展開を見せたかを、中国現代美術史の流れを踏まえつつ、この時期を代表する三人の画家、すなわち斉白石(1863-1957)黄賓虹(1864-1955)潘天寿(1897-1971)が残した画論、美術評論を主たる対象として探求することが目的である。 研究期間の初年度である2019年度においては、近年の中国における中国近現代美術史の概括的研究に留意し、その代表的な研究成果の調査検討を進めると同時に、20世紀前半期中国において、芸術、とくに絵画について、旧形式と見なされる技法形式がいかに受容され、どのような変容を求められたのかに焦点を絞って研究を進めた。 前者については、呂澎の一連の研究成果である大学教材として編纂され、2013年に出版された「中国現代美術史」及び「中国当代美術史」、及びそれらを元に一般向けに2015年に改訂出版された「美術的故事」、これらの業績に特に注意を払い、その中で取り扱われている項目の整理を行いつつ、中国画の継承問題に関する周辺の文献収集を進めた。 後者に関しては、魯迅(1881-1936)の著名な評論「論“旧形式”的採用」(1934年)を糸口として、20世紀10年代のいわゆる美術革命から30年代の木版画運動までの時期における、中国画創作に関する美術評論上に見られる主要な言説とその相互関係についての探索を開始した。研究成果の一端は、中国詩学研究会(五晧)で「二十世紀三十年代中国の旧形式をめぐる美術評論について」と題して、初歩的な報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の研究期間初年度にあたる2019年度においては、① 関連文献資料の調査収集と検討評価 ② 新たに収集した資料に基づく、中国画創作における継承と創造に関わる具体的テーマに沿った考察 ③ 20世紀に制作された絵画作品の実見、現代中国における20世紀絵画創作の展示と受容情況の調査、この三項目を本研究の三つの柱として規定し、研究を進める計画であった。 このうち、①と②については、上記実績の概要に記した通り、一定の進捗を見た。中国近現代美術の流れ再検討は、中国大陸及び台湾で精力的に進められており、上記の呂澎の業績の他にも、中国大陸においては20世紀80年代以降の新芸術思潮、とりわけ85年の美術運動を契機として、中国画創作においても斉白石や黄賓虹らの遺産を再評価した上で、それを乗り越えようと試みる当代水墨という新たな創作者たちが生まれていることを知り得た。台湾においても、20世紀後半以降の戦後台湾を一時期として捉える美術史研究の中で、水墨画に関する新たな考え方が示されていることが分かった。こうした20世紀末の動向をも踏まえて、20世紀の中国画創作における継承と創造の意義を追求する必要があると考えるに至った。 ①と②に関する上述のような知見を得た上で、③の今日的情況を実見することは欠かせない。しかしながら、2019年度内に実施を計画していた、大陸、特に黄賓虹に関する展示、潘天寿の記念館の実地調査や台湾現代美術の社会の受容情況を探るための実地調査は、新型コロナウイルスの蔓延の影響により現地渡航ができなくなったため、実現できなかったのは、本研究の推進にとって大きな障壁となった。今年度以降の研究期間に重点的に取り組む課題とせざるを得ない状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究期間の中間に当たる2020年度においては、現時点での進捗状況を踏まえ、20世紀10年代から世紀末、さらには今世紀における中国美術の動向をできる限り視野に収めた上で、中国現代美術の変遷史の独自的概括を進めるとともに、中国における美術概念の受容と変遷という視角から、斉白石、黄賓虹ら20世紀前半期中国画家の芸術創造的意義についての考察を具体的に進める。 それと同時に、今後、海外渡航環境が改善されれば、昨年度の進捗状況で課題として残した現代の大陸中国及び台湾における美術創作の受容のあり方の実地調査を進めることとしたい。中国語圏の、近現代美術を主たる展示内容とする主要な機関、たとえば2012年に開館した上海・中華芸術宮や、台湾・台中の台湾国立美術館などを実地調査する計画である。それらの中国語圏での実地調査により、現代の美術創作において斉白石ら20世紀前半期に絵画制作を行った中国画家たちの営みが、現在どのように継承され、新たな創造につながる可能性を持っていると見なされているのか、具体的な事例を通じて考察する。
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Causes of Carryover |
本研究課題では、当初の計画として、中国で企画実施されている20世紀中国画家の展示や今後の動向などを、可能な限り中国語圏各地の所蔵機関への現地調査による研究資料収集を進めることにしており、そのための外国旅費を2019年度では16万円を計上していた。具体的な中国本土・上海、杭州や台湾への渡航も、年度後半に実施する計画を立てていたが、折からの新型コロナウィルス蔓延により渡航が不可能になってしまった。2019年度経費に計上していた外国旅費が未使用であることにより、次年度予算額が増加する結果となった。次年度では、前年度未実施分をも含めて、渡航条件が整い次第、精力的に海外実地調査及び資料収集に取り組みたい。
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Research Products
(1 results)