2020 Fiscal Year Research-status Report
晋宋期における地方官吏の文学空間――山水と神怪の探求
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19K00370
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
大平 幸代 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (90351725)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 世説新語 / 劉宋 / 裴松之 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、東晋末から劉宋期における異聞愛好の風潮、それにともなう説話の形成・記録を中心に考察を進めた。主な考察対象は、裴松之『三国志注』、劉義慶『世説新語』、裴啓『語林』、檀道鸞『続晋陽秋』および劉裕北伐時の従征記である。考察の結果については、論文「不朽之「異聞」:劉宋人眼中的曹魏」にまとめ、台湾・中央研究院における国際学会で発表した。拙論中に論じたのは、主に以下の点である。 (1)東晋末から宋初にかけて、劉裕の文武両面にわたる政策によって、異聞を好む風潮が醸成される。北伐にともなう文人の見聞記だけでなく、武人の書信や奇策などが伝えられ記録された。(2)劉宋期には、裴氏を復興させた裴松之、開国の功臣の一族である檀道鸞のように、晋末以降台頭した士人が歴史記述を担う。彼らの史学・史観には、家学や一族内の伝承が大きな影響を与えている。(3)曹魏は、劉宋の文武並用の模範ともなった。曹氏父子のイメージの形成には、武人や「軽薄年少」の嗜好が深く関わっている。例えば、曹操の「仮譎」についても、武人の「機策」への関心の高まりの中においては、プラスの評価としてとらえ直すことができる。 また、昨年度に学会発表した、『世説新語』に関する論考「“豫章太守陳蕃”的徳行」を増補修訂した。本論は、後漢末から晋宋にかけての豫章における祭祀とその記録が、どのような逸話を生み出していったのか、そこに『世説新語』的嗜好がいかに盛り込まれているのかを考察したもので、論文集『魏晋風流与中国文化』(鳳凰出版社)に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
地方官僚組織における学術・文学活動についての考察は、あまり進展していない。ただし、劉宋期の武人の活動と文章記録については、新たな視点を獲得できた。本来行うはずであった海外での学術交流(座談会)は中止になったが、オンラインで学会に参加し、有益な意見交換を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、引き続き『語林』から『世説新語』にいたる逸話集の展開について、考察を進める。また、武人や戦乱にかかわる怪事がどのように語られ、変容していったのかという点に重点をおき、志怪がうまれた具体的状況を一つ一つ探っていく。これらの考察をとおして、晋宋期における「小説」の担い手および受け手としての士人群の様相を明らかにすることを目指す。
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Causes of Carryover |
国際学会がオンライン参加となったため、旅費の支出がなかった。未使用分は、次年度以降の旅費あるいは資料費(書籍費)にあてる。
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