2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00378
|
Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
佐藤 普美子 駒澤大学, 総合教育研究部, 教授 (60119427)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 中国新詩 / 公共性 / 倫理感覚 / 共感 / 美的経験 / 女性詩歌 |
Outline of Annual Research Achievements |
中国20世紀前半の出版文化の発達に伴い、口語自由詩「新詩」は日常的な言葉でそれぞれの共同体の関心や時代感覚を表現することで<公共性>を獲得し、新しい言語芸術としてその機能を拡大していった。本研究は、個人と共同体の関心や感情はどのように絡み合い、中国新詩に表現されているか、また新しい言語表現を促す文学資源として、伝統的な古典詩歌や翻訳された西洋詩歌はどのように機能したかについて、代表的な詩人を通して考察を進めるものである。 上記の観点から近百年の中国新詩の<公共性>の実態と変遷を跡づけることで、新詩が二十世紀中国に生きた人々の抒情表現、審美意識、倫理感覚の変革にいかなる役割を果たしたかを明らかにすることが本研究の最終目的である。 2021年度もコロナ禍下にあり、予定していた海外調査と国際シンポジウムでの報告はすべて中止となった。当初の計画の中で最も重要な四川大学中国詩歌研究院所蔵の20世紀中国詩歌関係出版物の網羅的な調査は行うことができなかった。しかし、インターネット上での中国・台湾同時代詩人や研究者との交流によって、研究対象を中国・台湾・香港からさらにシンガポールに広げ、「華語語系文学」というより広い地理的視野を持てるようになったことは大きな収穫である。 また研究の視角として、従来の「中国古典」「女性」の他に「戦争」を加えたことで、〈公共性〉の概念をより精細に考察することができた。さらに欧米の女性詩歌の翻訳を精力的に行ってきた台湾の女性詩人陳育虹との継続的な交流によって、詩歌と絵画の関係を再考する機会を得たことも〈公共性〉を考える新たなヒントとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の前3年間の計画の中で最も重要だった海外調査――四川大学中国詩歌研究院「劉福春中国新詩文献館」所蔵の詩集単行本、新詩雑誌等資料の閲覧――は、2020年度に続き、2021年度も実現できなかった。2021年秋の山東大学詩学高等中心主催のシンポジウムに招聘されたが、やはり出国できず、参加報告ができなかった。詩集や雑誌の現物を実際に手に取ることができなかったため、審美的分析は行っていない。 一方、基礎作業である近百年の代表的詩人のテクスト分析は、特に1930~40年代日中戦争期にフォーカスし、順調に進めることができた。国内はじめ大陸中国、台湾、香港の研究者と対面での交流はできなかったが、オンライン上では随時意見交換を行ってきた。新詩研究誌『九葉読詩会』第7号を国内外の中国現代文学研究者6名の協力を得て2022年3月に刊行した。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度に続き2022年度も当初予定した四川大学中国詩歌研究院「劉福春中国新詩文献館」における資料調査が可能かどうか明確な見通しが立っていない。10月中旬に開催される山東大学詩学高等中心新詩シンポジウムには参加予定であるが、状況により参加報告はオンライン上になることも考えられる。 基本的には個人と共同体の情感や倫理感覚にフォーカスしたテクスト分析の作業を続行し、国内外の新詩研究者との意見交流と論文執筆を中心に進めていきたい。研究の主な方向は以下の3点である。 1.女性詩歌と絵画の関わり――中国と台湾の代表的な女性詩人を通して、女性詩歌の系譜を作成し、それぞれの特色を創作と理論の両面から考察する。特に詩と絵画の関係にフォーカスする。 2.華語語系文学の視点からのテクスト分析――前年度、考察の対象を中国・台湾・香港の他、シンガポールにも広げたので、同分野で成果をあげているシンガポール国立大学張松建氏との研究交流と連携をさらに深め、この領域の作品にも目配りをしたい。 3.新詩研究誌『九葉読詩会』第8号の刊行――読詩会を基盤として、民国期旧体詩から同時代詩について多様な角度から討論を進める。読詩会(不定期)を開催し、新詩研究上の新しいトピックや情報を交換する。2023年春、会誌『九葉読詩会』第8号の刊行を目指す。なお今年度は最終年度となるため、同誌では研究を総括する特集を企画したい。
|
Causes of Carryover |
2021年度「印刷製本費」で刊行予定の研究誌『九葉読詩会』第7号の作成費用の支払いが(当該年度の会計処理期限がすでに終了しており)次年度予算から支出されたため。
|