2022 Fiscal Year Research-status Report
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19K00378
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
佐藤 普美子 駒澤大学, 総合教育研究部, 教授 (60119427)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 中国新詩 / 公共性 / 倫理感覚 / 共感 / 美的経験 / 女性詩歌 |
Outline of Annual Research Achievements |
中国20世紀初頭、思想運動の一環として誕生した口語自由詩「新詩」は日常的言語を用いて個人や共同体の関心や時代感覚を表現し、詩の<公共的>機能を拡大していった。本研究は個人と共同体の関心や感情はどのように絡み合って新詩に表現されているか、また新しい言語表現を促す文学資源としての伝統的古典詩歌や西洋詩学の翻訳は文学者や美学者にどのような啓発を与えたかについて考察を進めるものである。 上記の観点から近百年の中国新詩の<公共性>の変遷を跡づけることで、新詩が20世紀中国に生きた人々の抒情表現、審美意識、倫理感覚の変革にいかなる役割を果たしたかを明らかにし、その成果をより分かりやすい形で一般社会に提供することが本研究の最終目的である。 2022年度もコロナ禍の下、予定していた海外調査および国際シンポジウム(10月山東大学主催「詩歌叙述学先端学術フォーラム」)における参加報告は中止を余儀なくされた。当初の計画の中で最も重要な四川大学中国詩歌研究院所蔵の資料調査が実現できなかったため、研究の方向はいくぶん修正せざるを得なくなった。ただし実地調査に代わり、インターネット上での中国・台湾詩人や研究者との交流によって知見を深め、さらにその内容を分かりやすい形で一般社会に発信・提供できたことは思いがけない成果である。さらに研究対象のひとりである台湾女性詩人陳育虹が2022年秋にスウェーデンの文学賞Cikada賞を受賞したことで、<公共性>を「世界文学」と「普遍性」の視角から新たに考察する手がかりを得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の計画で当初は最も重要だった海外調査――四川大学中国詩歌研究院「劉福春中国新詩文献館」所蔵の詩集単行本、新詩雑誌等資料の閲覧――は、2021年度に続き2022年度も実現できなかった。2022年秋の山東大学詩学高等中心主催のシンポジウムに招聘されたが、やはり参加報告は中止せざるを得なかった。民国期の詩集や雑誌の現物を実際に手に取る機会がなかったため、モノとしての詩集や詩雑誌について審美的分析は行っていない。 一方、基礎作業である代表的詩人のテクスト分析は、民国期以外にも当代詩や台湾現代詩も視野に入れ、順調に進めることができた。国内はじめ中国語圏(中国、台湾、香港)の詩人や研究者と対面での交流の機会はなかったが、オンライン上では随時意見交換を行ってきた。新詩研究誌『九葉読詩会』第8号を国内外の中国現代文学研究者計7名の協力を得て2023年3月に刊行した。 ただし海外調査を全く行っていないため、総体的にはやや遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ感染状況が鎮静化に向かっているため、2023年度は海外調査を実行できる見通しが立っている。夏期休暇を利用し、台湾の台北と花蓮を中心とした資料調査と詩人へのインタビューを行い、成果は論文に発表したい。 基本的作業として民国期新詩に見える個人と共同体の情感、審美意識そして倫理にフォーカスしたテクスト分析を続行し、今年度末にはこれまでの研究成果を研究誌や単行本にまとめて一般社会に公開したい。研究の主な方向は以下の3点である。 1.海外調査(台湾):台北では陳育虹へのインタビューを行い、花蓮では詩人楊牧の足跡を調査する。 2.新詩研究誌『九葉読詩会』第9号の刊行:読詩会を基盤として、民国期旧体詩から同時代詩について多様な角度から討論を進める。読詩会を開催し、新詩研究上の新しいトピックスや情報を交換する。2024年春、会誌『九葉読詩会』第9号を刊行する。 3.単行本『美感と倫理――中国新詩研究』の出版:科学研究費による研究の成果をまとめ、知見を広く一般社会に公開する。
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Causes of Carryover |
コロナ下で出国する諸条件が整わず、当初より計画していた海外機関における資料調査と海外で開催された国際学会に参加することができず、計上した旅費は使用しなかった。また、対面式での講演会の開催が実現できなかったため、講師への謝礼である謝金も使用しなかった。 研究計画の今年度への延長が認められたので、2023年度使用額は主に海外調査と研究会誌の作成費用にあてる予定である。
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