2019 Fiscal Year Research-status Report
Studies of Editions of"Sanguo-Yingxiongzhizhuan"
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19K00380
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
中川 諭 立正大学, 文学部, 教授 (20261555)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 三国志演義 / 三国英雄志伝 / 簡本系 / 版本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の取りかかりとして、明代に刊行された三種類の『三国英雄志伝』、すなわち劉興我本・劉榮吾本・楊美生本を取り上げて、この三種類の版本の相互関係を考察した。その結果、楊美生本は他の二本とは少し離れた並列の関係にあり、劉興我本と劉榮吾本は密接な関係にあり、劉興我本は劉榮吾本の底本である可能性が高いことが分かった。さらに劉興我本の文章を他の系統に属する周曰校本・葉逢春本・劉龍田本・誠徳堂本と比べてみたところ、劉興我本(英雄志伝グループ)は簡本系に属する版本であるにもかかわらず、繁本系、特に二十四巻系の版本の文章によく似ていて、しかも簡本系「志伝グループ」と大きく異なっているという例がいくつか見つかる。その一方で「英雄志伝グループ」はやはり簡本系に属する版本なのであり、「志伝グループ」と文章が一致する例も多く存在している。これは従来の考え方からすると矛盾する点である。このような問題が存在することを指摘し、今後本課題を進めていく中で明らかにしていくことにした。 またドイツ・ワイマールのアンナ・アマリア公爵夫人図書館に蔵される『三国英雄志伝』を取り上げた。この本の標題は『二刻按鑑演義全像三國英雄志傳』で、書肆美玉堂から刊行された本である(美玉堂本)。本文の詳細な検討の結果、この本は楊美生本の翻刻本であることが分かった。また中国国家図書館に蔵される魏某本は、美玉堂本と標題が全く同じである。しかしこの二本は継承関係にあるわけではなく、比較的離れた関係にあり、標題の一致も偶然であろうと述べた。さらに上海図書館にも「美玉堂本」が蔵されている。上海の美玉堂本はワイマールの美玉堂本の二世代後の翻刻本、すなわち翻刻本の翻刻本であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題の研究の出発点となる、明刊本の『三国英雄志伝』についての研究が終わり、三種類の明刊本『三国英雄志伝』相互の関係を明らかにすると同時に、『三国英雄志伝』の成立に関わる極めて重要な問題を明らかにすることができた。また従来ほとんど知られていなかったワイマールのアンナ・アマリア公爵夫人図書館に蔵される『二刻三国英雄志伝』(美玉堂本)について、その性質と他の『三国英雄志伝』との関係を明らかにすることができた。 これらの研究成果を、中国で開催された国際学会で発表した。またそれぞれ研究論文を執筆し、一つは年度内に公刊された。もう一つは2020年度内に公刊予定である。 2019年度の研究に基づき、2020年度の研究に引き継いでいく。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度における研究によって、明代における『三国英雄志伝』の状況を明らかにし、「英雄志伝グループ」と他の系統との関係についての新たな問題が分かってきた。この問題は『三国英雄志伝』諸本についての研究について重要な問題である。引き続きこの問題について探求していく。 2019年度は主として明代に刊行された『三国英雄志伝』についての研究を行ったので、今後は続いて清代に刊行された『三国英雄志伝』を取り上げる。清刊本の『三国英雄志伝』は数多く現存しており、従来知られていた二十巻本・六巻本の他、十二巻本もあることが分かった。まず十二巻本(遼寧図書館蔵の松盛堂本)について検討し、二十巻本・六巻本との関係を考える。また二十巻本は上図下文形式の本、巻頭人物図形式の本、巻頭故事図形式の本と、図像の形式の異なる本がいくつも存在している。また本文についても、完全に簡本系の文章になっている本もあれば、二十巻本の中にも六巻本の冒頭数則が繁本系の文章になっている本もあることが分かってきた。こうした図像の形式と本文の形式に関連性があるのかということにも着目しながら、二十巻本『三国英雄志伝』の研究を進めていく。 このような研究を進めていくためには、同時に複数の『三国英雄志伝』版本の文章を比較する必要がある。手作業では不可能な作業であるため、コンピュータを利用せざるを得ない。そのため、コンピュータで利用できるように、各版本の本文データをデジタルテキストとして入力しなければならない。いまだ入力の終わっていない版本、致和堂本・嘉慶刊本・張青松氏私蔵の数本などの入力を、業者委託したり自身で入力したりする。その上でコンピュータ上で本文比較を行い、その差異を一字レベルで詳細に分析を行い、各種『三国英雄志伝』相互の関係について考察していく。
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Causes of Carryover |
業者に委託した版本本文のデータ入力が少々遅れており、それに伴い、業者への支払いが年度を越えることになった。 2020年度に依頼するデータ入力の費用とともに、「次年度使用額」を執行する予定である。
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Research Products
(6 results)