2021 Fiscal Year Research-status Report
Studies of Editions of"Sanguo-Yingxiongzhizhuan"
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19K00380
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
中川 諭 立正大学, 文学部, 教授 (20261555)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 三国英雄志伝 / 三国志演義 / 版本 / 簡本系 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、致和堂本と九州大学附属図書館所蔵の20巻『三国志伝』についての研究論文を執筆、発表した。 致和堂本は、北京在住の蔵書家である張青松氏個人蔵の『三国英雄志伝』の版本である。この本は確かに簡本「英雄志伝グループ」に属する版本であるが、その中でも特に六巻本に最も近い。しかし致和堂本は六巻本の直接の底本ではなく、六巻本の祖本と密接な関係にある。そして「先繁後簡」は従来六巻本の特徴と考えられてきたが、その特徴は致和堂本にも当てはまることから、「先繁後簡」は必ずしも六巻本に始まるものではなく、『三国英雄志伝』成立時にまで遡る可能性を指摘した。この論文を、第5届世界漢学論壇で口頭発表し、『立正大学人文科学研究所年報』第35号に発表した。 九州大学附属図書館所蔵の20巻『三国志伝』は、筆者が2013年に発見した版本である。従来研究が手つかずであったが、簡本系の版本であることから、『三国英雄志伝』との関連で、本年度本格的に研究に着手した。この本は多くの簡本「志伝グループ」から黄正甫本『三国志伝』(中国国家図書館蔵)ができあがっていく過程の途中に位置づけられる版本である。挿図の形式は誠徳堂本に近いが、挿図そのものは必ずしも誠徳堂本に基づいたものではなく、各種版本から寄せ集めて作られたものであろうことが分かった。この論文を2021年第二十届中国古代小説戯曲文献曁数字化学術研討会で口頭発表し、『三国志研究』第十七号に投稿した。 令和3年末に、首都師範大学の周文業氏より『三国英雄志伝』の新資料の写真が送られてきた。さっそく調査をしたところ、刊行年こそ清代になって以降のものであろうけれども、明刊本劉興我本『三国志伝』(「英雄志伝グループ」の一つ)と密接な関係にあり、さらに劉興我本よりも古い様相を留めていることが分かった。この本についての論文を執筆し、発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本年度は、当初夏休み期間にドイツ・ウィッテンとベルギー・ブリュッセルで開催される学会に参加すると同時に、イギリス・ロンドンに渡航して大英博物院図書館に蔵される『三国志演義』の版本を調査する計画であった。しかしながら新型コロナウイルス感染症流行の影響により、昨年度同様ヨーロッパへの渡航を中止せざるを得なかった。学会はオンラインでの開催になったため国内から参加し、予定の研究発表(発表題目「関于致和堂本《三国英雄志伝》」)を行うことができた。しかし現地に行かなければならない版本の調査は、本年度も行うことができなかった。 また令和2年度中に、中国において新たに数種類の『三国英雄志伝』が発見された。すなわち、輝県博物館蔵本・介休市開門書厮書店蔵本・三譲堂本・張青松氏蔵己本である。また北京の首都図書館にも『三国英雄志伝』の版本が一種類蔵されていることが分かった。これらの版本について、張青松氏所蔵本については、張氏のご好意により、本全体の写真を提供していただいた。しかしその他の図書館等所蔵の版本は、複写が許可されないこともあって、写真を入手することができていない。やはり現地に出かけ、原本を直接調査する必要がある。しかしながらやはり感染症流行の影響で中国への渡航ができず、研究を進められないでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、令和3年度末に周文業氏より送られてきた新発見の『三国英雄志伝』版本について、分析を完了させ、論文を執筆する。 その他、現在まだ入手できていない資料は全て海外にあり、研究を大きく進めるためには、海外渡航が必要である。そのため、今後の計画は感染症流行の終息に大きく影響されそうである。 幸いに感染症流行が終息に向かい海外渡航が可能になれば、まず中国に行って、輝県博物館蔵本・介休市開門書厮書店蔵本など、新たに発見された資料を調査する。そしてその調査結果に基づき、研究論文を執筆する。またイギリス渡航も考え、出かけることができれば、令和2・3年度に調査する予定だった版本の調査を行いたい。 もし今年度も海外渡航が不可能であれば、すでに収拾済みの資料をもとにして、引き続き『三国英雄志伝』各本の特質を明らかにしていく。そしてそれらを総合して、『三国英雄志伝』全体の変遷過程を考察し、その成立の様相についての問題点を整理していく。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、イギリス・ロンドン、中国・北京、上海など海外渡航を行い、海外の図書館に蔵される『三国英雄志伝』の版本を調査する予定であった。しかしながら新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって、海外渡航を行うことができなかった。そのため旅費としての支出が全くなかった。令和4年度も海外渡航の見通しがたたない。そのため、海外の研究者に協力を仰ぎ、新発見資料を中心に、海外に蔵される資料の収集に経費を使用していく予定である。
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