2020 Fiscal Year Research-status Report
ウィリアム・ブレイクとウィリアム・モリスにおける自他共生思想の比較研究
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19K00388
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 光 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (80296011)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ウィリアム・ブレイク / ウィリアム・モリス / 寿岳文章 / 書物論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ウィリアム・ブレイクのテクストに現れた自他共生思想とウィリアム・モリスの社会改革運動との関わりを探究することにあり、大英図書館で一次文献を調査し、大英図書館内で利用できるデータベースと電子ジャーナルを活用することを前提としていた。しかし、コロナウィルスの世界的な蔓延のために、前提としていた作業が不可能になったので、方針を転換し、ブレイクとモリスの両方に取り組んだ日本人研究者として、寿岳文章の仕事に注目することにした。 寿岳文章の書物論と装幀論には、ウィリアム・モリスの書物論が透けて見える。雑誌『ブレイクとホヰットマン』1巻1号の「雑記」で、寿岳はモリスの「ケルムスコット・プレス設立趣意書」に言及しており、また『ブレイクとホヰットマン』の余白の取り方はモリスが提案した様式と一致する。 一方で、寿岳はケルムスコット・プレスに見られる縁飾り、花文字模様、活字を、読みにくいものとして批判し、活字印刷の世界では、印刷者自身の個性は排除されるべきである、と主張した。寿岳の書物論は、対等な話し合いによって運営される共同体を求めて寿岳が提案した「書物の共和国」という概念につながっており、モリスの活動の批判的な受容の一形態と見なすことができる。以上については、拙論「寿岳文章の「書物の共和国」――対話のある共同体を目指して」(『向日庵』4号、2021年)で指摘したが、同論文の内容は本研究計画と部分的に重なるにすぎないので、「令和2年度の研究成果」には含めていない。同じように、拙論「柳宗悦と鈴木大拙の分水嶺――物に即して考える」(『現代思想2020年11月臨時増刊号 総特集 鈴木大拙――生誕一五〇年 禅からZenへ――』、2020年)でも寿岳の仕事の意義に触れたが、こちらも「令和2年度の研究成果」には含めていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
コロナウィルスの世界的な蔓延が原因で、英国での現地調査と大英図書館での資料収集が不可能になったため、当初の計画を、日本国内で収集できる資料を用いた研究へ変更せざるを得ず、研究遂行に遅れが発生している。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナウィルスの世界的な蔓延のために、大英図書館での資料収集が当面難しくなったことは、本研究を遂行する上で、大きな障害である。しかしながら、研究実績の概要に記したように、ブレイクとモリスの研究を進めた英文学者であり、民藝運動の活動家の一人であった寿岳文章の仕事に注目することで、日英比較文学比較文化研究を視野に入れつつ、本研究の当初の目標に向けて、作業を進める予定である。ブレイク研究とモリス研究が、寿岳の中で、寿岳の民藝運動とどのように結び付いていたかを考えることで、間接的ではあるが、ブレイクとモリスを自他共生思想の系譜上でつなぐことを目指したい。
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Causes of Carryover |
コロナウィルスの世界的な蔓延のために、英国での現地調査と大英図書館での資料収集が不可能になり、渡航費として想定していた金額が未使用となった。2021年秋以降に、海外渡航が可能な状況になれば、前年度未使用となった旅費を用いて、英国で調査と資料収集に当たりたい。もし、現地調査と大英図書館での資料収集が難しい場合は、1900年以降に日本で刊行された寿岳文章、柳宗悦、ウィリアム・ブレイク、ウィリアム・モリス関連の書籍の収集と国内旅費に使用する予定である。
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