2023 Fiscal Year Research-status Report
実証研究にもとづく受容論の刷新ー現代英国における文学テクストの生産・流通・受容ー
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19K00389
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
井川 ちとせ 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (20401672)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 英文学 / 受容論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、英文学研究において過去約九十年間にわたり提示されてきた作品の受容をめぐる諸理論を、批判的に再検討し、ある特定の歴史的・文化的文脈において文学テクストが意味を成すとはいかなる現象であるかを多角的に問うものである。本研究初年度の2019年度より、英国の出版文化において、一般読者とテクストとが複数の行為体によっていかに媒介されているかを明らかにするため、一般読者向けの紙媒体の季刊誌二誌、インターネット上の一般読者によるレビュー、書店や版元、作家が主催するウェブサイトにおける主催者と読者および読者同士の交流などの分析をおこなってきたが、2023年度は二度の渡英で、上述の季刊誌二誌の編集部と八つの書店での聞き取り調査のほか、三つの読書会の参与観察、アーノルド・ベネット協会大会およびオックスフォード大学における研究者との情報交換など、大変有意義な調査をおこなうことができた。 2019年度以降の研究成果は、単著による単行本二巻にまとめ2024年度中に刊行すべく、2023年6月に出版社と契約を結んだ。2020年度より三年間にわたり『言語文化』(第57、58、59巻)に連載した「読書会の効用、あるいは本のいろいろな使いみちーイングランド中部Tグループの事例」には大幅な加筆修正を施して三つの章に再編し、新たに四つの章を執筆した。書き下ろしを中心とする都合から、2023年度は紀要などへの寄稿は見合わせた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルスの感染拡大の余波で、交付申請時の計画通りに参与観察やフォーカス・グループ調査などをおこなうことは叶わず、調査手法の変更を余儀なくされたものの、成果発表の書籍化の目処が立ったため。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度である2024年度は、研究協力者との交流を維持しつつ、事例研究の蓄積を踏まえ、受容論が陥りがちなテクスト生産者と読者との二元的権力モデルに代わる新たな理論を構築することを目指し、研究成果の書籍化に注力したい。
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Causes of Carryover |
2019年度より2022年度まで現地調査の実施と国際学会への参加が叶わず、旅費を支出しなかったため。2024年度は、旅費と資料収集に使用したい。
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