2019 Fiscal Year Research-status Report
Sharing One's Stories: the Retrospect, the Present and the Prospect in Eighteenth-Century English Writings in Print and in the Archives
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19K00390
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
鈴木 実佳 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (40297768)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 啓蒙 / 女性 / 小説 / 雑誌 / 想像力 / 人生の物語 / 自己鍛錬 / 手紙 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、フィクションの中での、登場人物が人生を語る設定では、これまでの研究でもとりあげてきているセアラ・フィールディング(1710‐68)の作品を再検討してみることから始めた。彼女の作品のなかでも特異な『クライ』(1754)について、先駆的で際立った特質をもつスターン(1713‐68)の『トリストラム・シャンディ』(1759‐67)の視点と1750年代の文学作品を考えるシンポジウムの一員として、その革新性を考察する論文を発表した(2019年7月13日、日本ジョンソン協会第52回大会)。この発表でのポイントは、人間の本性を描き出すためには、空想の力を借りた不自然な設定が必要であるという主張がなされることである。この作品は、18世紀の興隆する書物市場が文学作品や世界を支配する力への不安や、数の力や妨害音の大きさで他を圧するマスメディアや民衆の影響力への危惧を想定したものと読むことができ、それもフィクションが可能にした革新的視点だった。 個人の記録からの考察においては、女性たちの日常の記録と啓蒙主義的な考え方についての検討を始めた。宗教的な内省でも、人生の物語においても、綴られ、語られる内容は、過去、あるいは過去と現在のつながりに重点がある。人間の世界の未来、人間社会の未来像を18世紀の人々は想定しないのか、するとしたらどのように取り上げるのか、というのが、自分に向けた問である。ISECS(国際18世紀学会)での発表は、スペンサー伯爵夫人((1737-1814)の手紙を使って、彼女の「改善」の考え方を考察した。彼女にとって、啓蒙とは、日常を意識的に管理し、計画に則った毎日を、方法と規則に従って送ることだった。そして、書物や定期刊行物など出版されたものから得た知識が、日常生活において、自己鍛錬を行うようにと促していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
18世紀の人々にとっての「未来」の想定や記述を探るのは、予想より時間がかかり、また考察していくのに適切な素材を見つけることができるかどうか、不安がある。自分の過去を語る物語については、フィクションも資料も豊富であるので、「未来」にあまりにもとらわれずに進むことも考える。
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Strategy for Future Research Activity |
18世紀の主に女性作家による未来想定をみていくが、まだどの作品が議論の対象にできるか定まっていないので、それを探る。18世紀の代表的な小説家リチャードソン(Samuel Richardson, 1689‐1761)の膨大な手紙の編集や、『英国小説家』(50巻、1810)編集をはじめとして文学界を広い視野をもってみることができ、自身も作家であったバーボールド(A.L. Barbauld, 1743‐1825)の1812年出版の詩「1811」(‘Eighteen Hundred and Eleven, A Poem')をまず手掛かりにする予定である。これは、イギリスの繁栄の後のアメリカの台頭、アメリカ人のノスタルジアの対象となるイギリスを予見した作品として知られている。 文学作品以外の日記や手紙の分析については、スペンサー伯爵夫人の資料を引き続き読み、まずハウ夫人との文通を題材にして、論文を発表する。 他に、18世紀の文学と20世紀、あるいは21世紀の現在との関連や、18世紀文学及び人々の記録の予見についても考察する。
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Causes of Carryover |
2020年1月8日から10日の英国18世紀学会での発表も考えていたが、日程の都合で参加しないことにし、また、2020年度はじめに、新たなコンピューターが必要になると予測されるので、2020年度に繰り越してより有効に使うことにした。
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