2021 Fiscal Year Research-status Report
Sharing One's Stories: the Retrospect, the Present and the Prospect in Eighteenth-Century English Writings in Print and in the Archives
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19K00390
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
鈴木 実佳 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (40297768)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 人生の物語 / 小説 / 過去、現在、未来 / 想像力 / 女性 / 手紙 / 自己鍛錬 / 啓蒙 |
Outline of Annual Research Achievements |
過去を振り返って内省し、日記や手紙にたどってきた過去を記録することに熱意をもち、小説などで人生を語るときには起点まで戻り人生の最初から述べていくというのが約束事のようになっていた18世紀の人々にとっての時間意識と自己の把握を考察するのが本研究の目的である。未来の地球や人類に注意を向けて現在の行動を律していこうとする傾向を強くもっている今の私たちから見て、過去・現在・未来との関係のとり方がかなり異なっていることに注目しつつ、啓蒙の時代の進歩の考え方と未来のとらえ方の記述を文学や個人の記録の文章から抽出して研究対象とした。 「疾病、ナラティヴ、未来」においては、流行病についての記述をとりあげた。『ペストの記憶』においてデフォーは過去に取材して現在に語りかけるにあたり、過去を生きた架空の人物を創出することにより、現在と過去をつなぐ構造を創りあげ、語り手が自分の未来へ向けてメッセージを送る仕組みを創った。レイディ・メアリ・ワートレイ・モンタギュの行動は、トルコの人痘法をイギリスにもたらし、いずれはワクチンへとつながり、それにより今の私たちにも大いに関わりをもつことになった。彼女の行動は彼女の未来に大きな働きかけをしたということだ。一方で、彼女は文才に秀でた人物であったが、詩作や雑誌記事においては、過去を振り返るか、現在への注目の際には当時の医者を諷刺し、諷刺の形での現在との関わりに留まった。未来とつながる現実の子供たちの健康を守る行動はとったが、未来の人類へのメッセージを執筆しようとはしなかったのである。 「都市生活とビール~家庭とノスタルジア」においては、家庭の女主人のためのレシピブックにおける理想について、失った過去と捉えられるものと目の前の現実をとりあげた。 他に、娯楽本と著作について過去・現在・未来の捉え方を論じた論文が出版予定(ゲラ段階)となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では、海外の学会での発表に重点をおいて研究を進めることをを計画しており、COVID-19 の影響により、その計画は破綻した。18世紀のイギリスに関する研究では、英米の18世紀学会における発表とそこで得られる批判や着想は非常に貴重なものであるので、それを行うための予算を大きくとっていた。その予定の変更を余儀なくされる状況において、これまでに集めている資料をじっくり再検討する機会に恵まれることになり、当初の計画からは逸れることになるが、その方向で研究を進めることに決めた。新たな方向では、18世紀から19世紀にかけての人々の時間軸の想定をこれまでとは違う資料を参照して進めていくことも行うが、これまで努力を集中してきたスペンサー伯爵夫人が残した資料の研究を日本語の書物としてまとめていくことに注力する。これにはかなりの時間と努力の集中が必要であるが、次年度に達成する目途がたちつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況に述べたように、研究計画作成当初の予定を大幅に変更して、2020年度、2021年度に海外旅費として確保してあった予算を繰り越し、2022年度に予算を執行する。2022年度にそれを複数の海外出張旅費として使うことは現実的でなく、また研究期間全体の意義を考えても適切な使い方とは言えないと考え、研究にとって有効な別の用途を検討し、事務的な確認も行った。その結果、研究をまとめあげ発表することに使用することが妥当であると判断した。日本語での書物の出版を目指す。今年度前半は、これまで長い時間をかけて努力を集中してきたスペンサー伯爵夫人が残した資料の研究を日本語の書物としてまとめていくことに注力する。それが完了した後、年度の後半は、18世紀から19世紀にかけての人々の時間軸の想定を、スペンサー伯爵夫人の資料以外の資料、つまりフィクションや実用書、他の人物の日記や手紙などを参照して年度末までに論文として投稿する。
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Causes of Carryover |
当初の予定においては、海外の学会での発表を重視し、そのための海外旅費を確保してあった。COVID-19の状況により、海外渡航が現実的でなかった時期が続いたため、2020年度に続いて2021年度の予算計画にも大きな変更を加えざるを得なかった。それを有効に使用するための方策を事務に確認してもらいながら検討したところ、出版物買取に使用できるということであるので、2022年度に書物として研究をまとめ、その書物買取費用として予算を使用する計画である。
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[Book] 十八世紀イギリス文学研究 第7号[刊行予定」2022
Author(s)
服部典之、福本宰之、内田勝、Hiroki Kubota, 川津雅江、原田範行、川田潤、三原穂、西山徹、金津和美、鈴木実佳、廣田美玲、吉田直希
Total Pages
243+ 担当第11章「対戦・伝統・予測」(186-206)
Publisher
開拓社
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