2022 Fiscal Year Research-status Report
Material-Physical Phases of Associationism: An Interdesciplinary Re-Interpretation of a Post-Enlightenment Literary Theory
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19K00392
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小口 一郎 大阪大学, 大学院人文学研究科(言語文化学専攻), 教授 (70205368)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 観念連合論 / 唯物論 / 超越論 / 自然 / 生命 / 造園 / 風景 / 身体 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は「現在までの進捗状況」に示す事情により、研究の柱の部分は進捗に乏しく、主に現段階の周縁部分を構成する文化事象の研究に取り組んだ。本来取組む予定であったWilliam Wordsworthの自伝詩The Preludeの翻訳と、観念連合の観点からの注釈と解題の執筆については、改めて2023年度に第1稿の完成を目ざすこととした。成果をあげた文化事象の研究は以下の2点である。
上記翻訳・注釈に盛り込むための、観念連合論と17、18世紀の身体論、経験論哲学、唯物論の関係、そして19世紀超越論への理論的貢献についての考察を進めた。文献調査や先行研究の精査の中で、19世紀の生命体論とそれに伴う思想が、それまでの哲学を乗り越えていく経緯をかなり明確にすることができた。その成果を、最近のロマン主義思想の研究書の書評に盛り込み、発表した。対象は、日本シェリー研究センター編『フランケンシュタインの世紀』である。
また、観念連合論による物理的世界の認識については、19世紀前半のワーズワスの造園と風景描写を題材として論じ、人間精神が自然景観という物理刺激・インプットを、観念の連想を経ることによりどのように美学的対象と化したのかを、ロマン主義完成期の自然描写文書において分析した。その結果、造園という自然の物理性を文化が馴致し、限定された空間に再現する営みが、イギリス湖水地方の風景認識・描写という大規模な物理的自然認識の枠組みとなっていたこと、そしてこの枠組みにより、事物と観念、自然と人為という2組みの二項対立が、現代的な形に超克されていることを確認できた。この研究成果は口頭発表およびそのプロシーディングズとして発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2022年度も、2021年度と同様、コロナ禍により現地へ渡航しての実地調査が実現しなかった。研究代表者の健康状態や年齢もあり、イギリス、フランス、ドイツにおもむき、現地調査と資料収集をすることには無視できない危険がともなうと判断した結果である。これにより、本研究の結論部分をなす翻訳と注釈、そして作品解題の完成が見込めず、研究の進展は残念ながらほぼ2年間遅滞することとなった。
本研究の結論的部分をなす、ワーズワスの『序曲』を題材とする翻訳事業は、すでに先行する日本語注釈および翻訳が存在するため、新しい資料や観点を入れ、さらなる翻訳と注釈の意義づけをする必要がある。それには観念連合論の観点を取り入れつつ、今まであまり意識されていなかった、現地の地理・地形、物理的自然状況、気候等を詳細に調査し、風景認識と美学的鑑賞の実体験をある程度再現する必要であった。
このため、イギリス湖水地方、デヴォン、コーンウォール地方、ウェールズ、ヨークシャーの調査に加え、フランスのオルレアン、ドイツのゴスラーを対象とする2週間弱の旅程を、実行可能な計画として組むことが必須である。この現地調査の意義と実現のための準備体制等に鑑み、研究をさらに1年遅らせ、2023年度にあらためてできる限りの調査を行うこととした。
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Strategy for Future Research Activity |
すでに述べたように、本年度は主にワーズワスの最重要作品の翻訳、注釈、解題執筆に、本研究の成果を盛り込むことに注力し、もって研究の締めくくりとする予定である。そのためイギリス、ドイツ、フランスに出張を計画している。翻訳はすでに80%程度完成しているが、実地使用により必要な修正を施したうえで、今後新たに翻訳する部分の正確性に寄与するよう活用したい。
翻訳文には、観念連合にかかわる心理学、生理学、哲学の観点から詳細な注釈を執筆する。すでに伝記的背景、直接的な歴史的文脈、文学者や文学作品との関係を論じた注釈はある程度存在するので、今回の試みは、こうした先行する翻訳・注釈を補足するものとする。解題の執筆にあたってもこの方針をとり、観念連合論にまつわる唯物論、汎神論、環境論的自然観、そしてそれを超克する超越論の観点に基づいたものを目指す。
観念連合論は、古典古代から続く人間観・思想伝統であり、特にThomas Hobbesの初期近代以降のイギリス思想においては、骨格をなす理論である。その展開は単に心理学や哲学の分野にとどまらず、芸術創造や身体論、環境論までをカバーする。その一端を示すのに、自己省察、歴史、政治、身体認識、自然観にかかわり、前世代の思想を継承しつつ、かつ後世に多大な影響をもたらした新たな近代性を打ち立てた文学作品を論じることは、この心理学理論の意義と歴史的展開を考察する有効な視座となる。注釈および解題では、この議論を十分に論じ、観念連合のより包括的な意義付けに貢献したい。
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Causes of Carryover |
本研究は、観念連合論を、関連する文書の翻訳と注釈づけ、そして作品解題を執筆することにより、日本の学術界に紹介し、かつ記録することであった。ワーズワスの『序曲』1805年版を主な翻訳対象と考え、本研究が提起する新しい観点から作品に関係する地理、地形、気候、文化等の事実的背景を現地にて調査することを予定していた。
しかし、コロナ禍の継続と、研究代表者の年齢や健康状態の懸念から、イギリス、ドイツ、フランスでの調査・研究を差し控えることになった。教育上のコロナ対応により、業務負担が過重となり、出張日程の調整が不可能となっていたこともある。よって、2022年度、本研究の総括に位置づけていた翻訳、注釈、そして解題の執筆については、残念ながら2023年度の課題とすることとした。
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Research Products
(3 results)