2023 Fiscal Year Annual Research Report
Material-Physical Phases of Associationism: An Interdesciplinary Re-Interpretation of a Post-Enlightenment Literary Theory
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19K00392
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小口 一郎 大阪大学, 大学院人文学研究科(言語文化学専攻), 教授 (70205368)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 人新世 / エコクリティシズム / エコロジー / 環境 / イギリス / 文学 / 風景画 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、近年のエコロジー批評における最近の重要な成果、Seth T. Reno, Early Anthropocene Literature in Britain, 1750-1884について英文による書評を執筆し、その中で本研究課題の観点から対象書籍の議論を分析した。
同書は、現代の環境思想・批評界において枢要な概念の一つである「人新世」が、18世紀から19世紀にかけてのイギリス文学において共有され、詩、定期刊行物に引用された断片的な世俗文学、絵画等の約130年間にわたる展開を決定する一因となっていたことを論じたものである。書評においては、この書の研究的意義を詳述した後、本研究のテーマである心理現象の物質性と身体性の観点から、さらなる研究的展開の可能性を提起した。もともと環境批評は、言語文化がいかに物理的世界とかかわるかという問題意識から、それまでの観念的な批評や、歴史資料や作品の政治性を重んじる傾向のあった文学・文化研究を、物質の観点から再検討すると共に、環境危機のただ中にある21世紀の人文学の新しいあり方を再定義しようとする営為であった。本研究は、18世紀心理学がはらむ物質・身体的要素と、同要素の19世紀文学における展開を問題とするものであり、その観点から、対象書が十分に論じきっていなかった以下の2点について、研究的提言をおこなった。具体的には、1) 当時の思想界には、気候や地勢の改変を記録する中で、「人新世」的要素を肯定的に受容する傾向が見られたこと、2) 自然現象と認識されていたものの根源に、人為の関与があった例について、「人新世」的な視座から解釈が可能であること、である。
本研究の2023年度の主要成果は、上記のものであり、当初予定していたイングランド西部および北部の実地調査は実現せず、よって、それを受けた翻訳と注釈の執筆も完成していない。残されたこの課題は、研究期間終了後にできるだけ速やかに実施する予定である。
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