2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K00393
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
野谷 啓二 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (80164698)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | デイヴィッド・ジョーンズ / イギリスのカトリシズム / T.S.エリオット |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度から最終年度までジョーンズの代表作であるIn ParenthesisとThe Anathemataを読み解き、翻訳に着手する予定であった。翻訳こそが文学研究の社会貢献と信じるからである。進捗状況はIn Parenthesis『括弧の中で』に集中しており、最終年度中に形にしたいと考えている。実際に作業をしてみると難易度が高く、現実的判断としてはAnathemataの翻訳はこの科研プロジェクトでの完成は断念せざるを得ない。 ジョーンズは第一次世界大戦の従軍体験から、エリオットが「天才の作品」と称賛した『括弧の中で』を書いた。この作品にルパート・ブルックやウィルフレッド・オーエンといった「戦争詩人」の作品の範疇には入れられない深みがあるのはなぜか。モダニズム文学の作品に共通する枠組みとして古典となった文学作品や神話・文化人類学研究の成果を創造に取り込む姿勢があることが一つの理由であろう。彼の場合のイギリス、特にウェールズの歴史と神話が現実の戦争体験と共振するわけである。前線でドイツ軍と対峙しあったときに軍服の色から北欧の「灰色の狼」を常に連想したというジョーンズの発言は、詩人の精神の働き方を示す一つの例だ。戦争を言語で表現する困難さをシェイクスピアの『ヘンリ四世』のハリーへのアルージョンで克服しようともしている。しかし実戦に参加したものの記憶を確たるものにし、詩の原形と成したものは微細とも思える――例をあげれば敵軍のマシンガンを持った兵士はコンサート開始前の調音をする楽手に見えたなど――個人的経験だった。詩が書かれていく過程にこのような特異なジョーンズの感性と観察は、宗教的リチュアル、特に彼が信じたカトリシズムにおけるミサ聖祭の司祭の働きに関連していると思われる。 ジョーンズを推奨し、第一次世界大戦の『荒地』認識など、深い影響を与えたエリオットについての論文2編を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
Covid 19のために予定していた海外出張が2年連続中止せざるを得ない状況となり、ジョーンズ研究の第一人者であるディルワース教授に面会、疑問点について討論できなくなったこと、また実績報告にも記載したとおり、ジョーンズの大作2編すべての翻訳は、詩の難度が高いこと、残された時間から見ても現実的ではないと判断したため、当初の計画よりも遅れていると評価せざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況の判断を踏まえ、残りの一年間で『括弧の中で』の翻訳に専念する。アルージョンに満ちた詩の解読には多くの時間が必要であるが、昨年度で定年退職したのでこの研究環境の変化はプラスに働くと思われる。
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Causes of Carryover |
進捗状況の確認でも記したとおり、本研究は海外出張をCovid19のために行うことができず、予算の執行に予期せぬ遅延が生じたため。最終年度においては状況を見て予定されていた出張を行う。それがかなわないと判断される状況となった場合は、課題に関連する図書の購入を考えたい。図書館に納められれば後進の研究者にも資することになるだろう。
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