2020 Fiscal Year Research-status Report
Border Culture as a Strategy for Defying Intolerance and Revitalizing Diversity in Contemporary US
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19K00396
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
喜納 育江 琉球大学, 国際地域創造学部, 教授 (20284945)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / 境域文化 / トランスナショナル / 不寛容 / パンデミック |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、アメリカ合衆国の中でも人種や文化の多様性と混淆性に富む、「境域」ともいうべき地域社会で醸成されてきた他者への想像力が、今日のアメリカの政治的状況の中で勢いを増す「不寛容(intolerance)」の言説にどのように対峙しているかを考察し、21世紀にアメリカの文学や文化が直面している課題の展望を試みることを目的としている。しかしながら、今年度は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大による海外への渡航が制限された結果、米国での調査を遂行することができなかった。十分な資料や情報の収集ができなかったため、研究成果論文の執筆にも遅れが生じている。しかしながら、米国の研究者や作家と定期的にオンラインでの面談を通して、COVID-19による未曾有の事態の中で、アメリカ社会においても本研究のテーマである「不寛容」に関連して様々な現象が生じていることがわかった。その一つが、アジア系市民に対するヘイトクライムの増加である。歴史的に構築されてきた白人至上主義が感染症への恐怖とメディアの短絡的な情報に助長されて起こった犯罪であるといえるが、21世紀になってもいまだに古い人種観に執着するアメリカ社会の実態が明るみになった。一方で、21世紀のアメリカ文学というべき作品も確実に出版されている。日系作家のKaren Tei Yamashitaはもとより、ナイジェリア系作家のTeju Coleや、中国系の若手作家Charles Yuなどの言説には、白人至上主義の時代遅れの偏狭さとは対極的な感性が示されている。これらの作家はアメリカとアメリカ以外の文化の境域で表現している。また、まだアメリカ文学のアンソロジーにも収録されていない。また非伝統的なメディア(オーディオや映像)による新たな文学表現も模索されていることにも今後は留意しながら研究を進めていくべきであろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度は終息が望まれていたCOVID-19が、終息するどころか世界的にさらに拡大する事態となり、引き続き米国への渡航が制限される中、当然ながら本研究で重要となる現地での情報収集に遅れが生じた。アメリカの研究者や作家とはオンラインツールを利用して聞き取りや意見交換などを行ったが、効果は限定的だったため、成果論文の構想に支障が生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは感染症の終息により、当初の計画通りの研究活動が可能になることを願うが、一方で、Eメールやオンラインを活用したインタビューや情報収集に努めたい。また、2020年度にCOVID-19が引き金となって生じたアメリカにおけるアジア人差別や外国人への暴力の顕在化は、本研究に新たな考察をもたらすこととなった。現地での反応を見るには、やはり現地に行って聞き取り調査を行うことが最も効果的であるが、オンラインを活用してパンデミックが米国の「不寛容」をどのように増長させ、顕在化させるに至ったかのプロセスを分析したい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染による海外渡航制限により、米国での資料収集等の調査が遂行できなかったため、研究の進行に遅延が生じている。感染症が終息したらすぐに調査を再開する。具体的には、2019年度に遂行できなかったニューメキシコ州とテキサス州における資料収集と聞き取り調査のための旅費として使用する。その上で可能であれば、カリフォルニア州、ニューヨーク州、ハワイ州にもトランスナショナルな「他者」と「不寛容の言説」」に関する調査旅費としても使用する。
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