2019 Fiscal Year Research-status Report
19世紀アメリカにおける健康改革運動と文学作品の相補的関連性についての研究
Project/Area Number |
19K00400
|
Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
稲垣 伸一 実践女子大学, 文学部, 教授 (00269599)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 健康改革 / 千年王国 / 共和制国家 / 水治療 / 服装改革 |
Outline of Annual Research Achievements |
19世紀アメリカにおける健康改革、とりわけ服装改革と水治療との相互関係、健康に関する言説とジェンダーとの関係について考察するための資料収集にあたった。そのためにアメリカ合衆国に出張し、American Antiquarian Society(Worcester, MA), Syracuse UniversityのBird Library(Syracuse, NY), New York Public Library(New York, NY)を訪問し、一次資料を収集した。 収集した資料については帰国後ただちに読解に入り、また服装改革と水治療の関係についてその両方の分野に携わったMary Gove Nicholsの自伝小説Mary Lyndon (1855)からも考察した。 その結果、19世紀半ばのアメリカにおいてAmelia Bloomerに代表される服装改革の思想は、ニコルズの水治療および結婚制度改革(marriage reform)についての思想、女子教育の中でCatharine Beecherの徒手体操(Calisthenics)やオナイダ・コミュニティ(Oneida Community)が実践したコミュニティ運動など多岐にわたる分野で共有されていたことを検証した。またこれらの相互関連性は社会における女性の地位の問題と密接につながる、女性の健康というジェンダーの問題としてとらえられることを指摘した。 その成果の一部を所属研究機関主催の公開講演会でのシンポジウム「「動く」女性-日英米の女子教育と服装改革の歴史」で発表、さらにその内容に加筆・修正を施し、論文「19世紀アメリカの服装改革-健康増進と女性解放」として所属する学科が発行する論文誌『実践英文学』に発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請段階から計画していたアメリカ合衆国での資料収集で、計画通りに、あるいは予想以上に順調に一次資料を集めることができた。特に訪問した研究機関で菜食主義者John Harvey Kellogの文章など当初の予定よりも多くの資料を、あるものは写真撮影により、またあるものはPDFやマイクロフィルムからのデジタルデータで入手できた。また研究機関で得た情報により、入手したかった資料の一部はオンラインのデータベースからも入手可能であることを知った。本研究初年度に実施した資料収集のための出張は予想以上に充実したものとなった。 研究成果については、まだ収集した資料の読解が途上であるものの、当初計画していた水治療の推進者Mary Gove Nicholsの小説を精読することにより、彼女の思想が水治療だけではなく、服装改革や結婚制度におけるジェンダーの問題と深く関わっていたことが検証できた。ニコルズについては日本ばかりではなく、アメリカにおいても、それほど多くの研究がなされていないと思われるため、健康改革という文脈で彼女についての研究から本研究が始められたことは有意義であると思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は以下の3つの点を主な内容としている。 1.偉大な共和制国家実現と至福千年王国の到来という国家主義的・宗教的願望(信条)が、いかに健康改革運動のレトリックに入り込んだかを改革実践者の残した一次資料から探る。2.その国家主義的・宗教的願望と健康改革との関係を文学作品から検証する。3.健康改革運動と文学を結ぶ水治療の推進者Mary Gove Nicholsの言説を分析する。 以上の3点から研究初年度の成果を振り返ると、収集した一次資料の一部について分析を行いニコルズの自伝小説についても分析できたことから、現段階においてどの点についてもある程度は進んでいる。しかし、1で挙げているキリスト教の千年王国思想や偉大な共和制国家実現という大きな文脈の中に健康改革運動をおいて考察するまでには至っておらず、また、そうした関係を文学作品から読み取る作業もまだ始まったばかりである。 したがって今後の研究の方向としては、一次資料を読む作業を進める中で、千年王国思想や共和制国家というより大きな文脈の中に健康改革運動を位置づけることを目指し、同時代の文学作品も一次資料の中に含めて分析していくことを推進していきたい。
|
Causes of Carryover |
本研究課題関連の研究図書の購入に物品費を充てる予定だったが、予定していたよりも少ない額の支出にとどまった。そのため、次年度は本研究課題に関連する領域の先行研究を調査するために研究図書(二次資料)の購入を増やし、一次資料を分析する際の参考とする予定である。
|
Research Products
(1 results)