2019 Fiscal Year Research-status Report
ジョイスの北アイルランド表象の政治学―ルイス・J・ウォルシュとの比較を通して
Project/Area Number |
19K00408
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Research Institution | Yasuda Women's University |
Principal Investigator |
田多良 俊樹 安田女子大学, 文学部, 准教授 (40510467)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | James Joyce / Louis J Walsh / アイルランド / 北アイルランド / 民族主義 / 政治性 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、ルイス・J・ウォルシュの北アイルランド民族主義をとらえる第一歩として伝記研究を遂行した。まず、ジェイムズ・ジョイスに関する既存の伝記研究をすべて検討し、ジョイスの大学時代の同窓としてウォルシュが取り上げられている箇所を考察した。ウォルシュが、大学時代に、W. B. イェイツらが主導したいわゆる「アイルランド文芸復興運動」に対して関心を持っていたことが判明した。 ただし、ジョイスに関する伝記的研究においては、19世紀のアイルランド詩人ジェイムズ・クラレンス・マンガンに関するジョイスの口頭発表を手厳しく批判した、ジョイスの大学時代のライバルの一人という位置づけを超える情報を見いだせなかった。ジョイスとウォルシュがライバル関係にあったという点に、重要性がないわけではない。実際、このライバル関係が、ジョイスの著作においては抑圧されていることを、2019年7月にアイルランドはダブリンで行われた国際学会 IASIL 2019 において口頭発表した。しかしながら、ジョイスのライバルという位置づけを超える伝記的要素をとらえることも試す必要があるだろう。 このためには、ウォルシュの伝記的側面に関する一次資料が必要不可欠である。研究計画では、2019年度の春季休業中に、ウォルシュの出生地マヘラや勤務地レターケニーで現地調査を行う予定でったが、新型コロナウィルスのパンデミックの影響で実行できなかった。このため2019年度の目標である、ウォルシュの伝記的背景に対する多角的なアプローチが十分遂行できていないが、それを補う方策が今後必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ジョイスに関する既存の伝記的研究において提示されているウォルシュ像が想定に反して非常に似通っており、ウォルシュについての伝記的研究としてはもっと多角的なアプローチが必要であると考える。しかし、そのためのウォルシュの出生地および勤務地における現地調査がコロナ禍の影響で実施できていない。このため、2019年度の目標であったウォルシュの伝記的背景の精査は、「やや遅れている」と評価せざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍の終息の時期はいつになるか分からないため、ウォルシュに関係する北アイルランドの諸地域における現地調査実施は、2020年度においても実現性が低いと考えている。現地調査は、本研究課題の最終年度になることも十分あり得る。 よって、今後の研究の推進方策としては、Eメール等で文書の提供などを求めることができる場合は、それを行う。また、ウォルシュと交流のあったとされるジョイス以外の作家や、民族主義運動家についての伝記的研究を検討の対象に含め、間接的なかたちではあっても、ウォルシュの実像に多角的に迫ることを試みる。
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Causes of Carryover |
2019年度の春季休業中に計画していた北アイルランド現地調査が実施できなくなったため。現地調査のための渡航が不可能と判断してから、現在所有している希少な資料の再入手も困難になると考えたため、現地調査費のデジタル化のために必要な機器の購入に充てた。 この結果、次年度使用額として残った現地調査用の費用は、コロナ禍の状況を考慮しつつ適切な時期に旅費として使用する。
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Research Products
(1 results)