2020 Fiscal Year Research-status Report
ジョイスの北アイルランド表象の政治学―ルイス・J・ウォルシュとの比較を通して
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19K00408
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Research Institution | Yasuda Women's University |
Principal Investigator |
田多良 俊樹 安田女子大学, 文学部, 准教授 (40510467)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | James Joyce / Louis J. Walsh / アイルランド / 北アイルランド / ナショナリズム / ユニオニズム / 政治性 / Deasy |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の計画では、2020年度と2021年度を、ルイス・J・ウォルシュの主要6作品において北部アイルランドのナショナリズムがどのように表象されているかを分析することに宛てる予定であった。しかしながら、長引くコロナ禍の影響によって研究時間の確保さえ非常に困難になったため、2020年度は、ウォルシュの代表的小説 The Next Time: A Story of 'Fourty-Eight に関する考察のみを完了するにとどまった。当該作品においては、アイルランド北部のカトリックという立場から見たアイルランド・ナショナリズムが克明に描かれており、次世代にナショナル・アイデンティティを継承しようとする明確な意思が看取される。 しかしながら、北部出身のナショナリストであるウォルシュが、イギリスとの連合維持を主張する南部および北部アイルランドのユニオニストにどのような見解を持っていたのかを確認する必要がある。この確認のためには、当該作品の発表当時の評価を、定期刊行物に掲載された広告や書評を調査する作業が是非とも必要である。コロナ禍の終息をまって現地調査を実現し、実証的な論文にしたいと考えている。 他方、ジョイスと北部アイルランドの関係性についての研究では、本研究課題を新たな視点から推進するヒントを得ることができた。2020年9月26日にオンラインで行われた『ユリシーズ』研究会にて発表した際に、ジョイスの『ユリシーズ』に登場するディージー校長は、北アイルランド出身と見なされているが、「ディージー(Deasy)」という姓は実は南アイルランドのコーク地方に多い姓であるとの示唆を受けた。コーク地方は、ジョイスの父親の出身地でもある。この「人物造型における南北のねじれ」は、北部アイルランドに対するジョイスの政治的態度に新たな解釈をもらたす可能性があると思われるため、現在鋭意考察中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2019年度の春季休業中(2020年3月)のみならず、2020年度もコロナ禍の影響で、ウォルシュの出生地および勤務地における資料調査が実施できなかった。 また、研究以外の業務の多忙化により、ウォルシュの作品分析も当初の計画どおりには進んでいない。 したがって、進捗状況については「遅れている」と評価せざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
イギリスやアイルランドにおけるコロナ禍の状況によるが、2021年度も現地調査ができない場合は、アイルランド国立図書館、アイルランド公文書館、北アイルランドの各大学図書館にデジタルで提供可能な資料の提供を求める。 また、ウォルシュと交流があったとされるジョイス以外の作家や、民族主義運動家の著作を検討し、ウォルシュの伝記的な実像に多角的にアプローチすることを試みる。
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Causes of Carryover |
2020年度中に計画していた北アイルランド現地調査が実施不可能になったため、繰越金が生じた。次年度使用額として残った費用は、コロナ禍の状況を考慮しつつ、適切な時期に現地調査のための旅費として思料する。
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