2021 Fiscal Year Research-status Report
ジョイスの北アイルランド表象の政治学―ルイス・J・ウォルシュとの比較を通して
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19K00408
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Research Institution | Yasuda Women's University |
Principal Investigator |
田多良 俊樹 安田女子大学, 文学部, 准教授 (40510467)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | James Joyce / Louis J. Walsh / アイルランド / 北アイルランド / ナショナリズム / ユニオニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、前年度の研究会で得た新たな着目点を部分的に論文に含めることができた。北アイルランド出身で、イギリスとの連合支持者としか思えない(そして、実際に多くの先行研究でもそのように考えらえれている)ディージー(Deasy)校長のその姓が、実は南アイルランドのコーク地方に多いという点を、オンライン上で閲覧できる1901年実施のアイルランド国勢調査の分析をもとに考察した。その結果、ディージー姓はその90%近くが南アイルランドに居住しており、宗教的にはカトリックであった。 『ユリシーズ』におけるディージーは、北アイルランド出身のプロテスタントとして造型されているので、現実の多くのディージーたちとは対照的である。この点は、南アイルランドのナショナリズムと、北アイルランドのユニオニズムの反転可能性に対するジョイスの意図的な操作と思われる。まだまだ歴史的な背景から精査は必要だが、ジョイス作品における北アイルランド表象の政治性、およびそれに対するルイス・J・ウォルシュの影響を考察する本課題において、わずかでも重要なポイントをおさえることができたと言える。 また、コロナ禍で研究時間の確保が困難な状況が続いたが、その中でも、ルイスの自伝的小説 The Years of a Country Attoneyを精読することができた。今後は、すみやかにこの作品に関する考察を論文にまとめたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度もコロナ禍の影響で、ルイス・J・ウォルシュの出生地および勤務地における資料調査が実施できていない。しかしながら、上述のように、2020年度はウォルシュの作品に関する分析をわずかだが進めることができた。これらを総合的に考慮して、進捗状況は「やや遅れている」と評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度になってもコロナ禍の影響が大きく、アイルランドでの実施調査が実施できていない。そこで、2022年度はコロナ過が終息しないという前提で、アイルランド国立図書館、アイルランド公文書館、北アイルランドの各大学図書館にデジタルで提供可能な資料がないか打診する。また、Zoomなどを活用して、図書館や公文書館のリサーチスタッフや、大学の研究者とオンラインで意見交換を行い、現地調査の代替策とする。
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Causes of Carryover |
2021年度中に計画していたアイルランドおよび北アイルランドにおける現地調査が実施できなかったため。両国のコロナ禍の状況を注視して、2022年度に旅費として使用する。
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Research Products
(2 results)