2023 Fiscal Year Research-status Report
ジョイスの北アイルランド表象の政治学―ルイス・J・ウォルシュとの比較を通して
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19K00408
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Research Institution | Yasuda Women's University |
Principal Investigator |
田多良 俊樹 安田女子大学, 文学部, 准教授 (40510467)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | James Joyce / Louis J Walsh / アイルランド / 北アイルランド / ナショナリズム / ユニオニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、夏季休業中にダブリンで資料調査を行った。アイルランド国立図書館に所蔵されているルイス・J・ウォルシュの直筆書簡を読み、デジタル写真として複製した。これらの書簡には、南アイルランド在住で民族主義運動に関係のあった人物とのやり取りが含まれていたが、それらは会合の開催時間を知らせる電報などがほとんどであった。それでも、北アイルランド出身のウォルシュが、南アイルランドの民族主義運等に深く関係していたことを示すという意味で、これらの資料には意義があると思われる。 この調査から、ウォルシュの北部アイルランド・ナショナリズムは、南アイルランドのナショナリズムから大いに影響を受けている可能性が浮上した。このことはまた、ジョイスの代表作『ユリシーズ』に登場する最も過激なナショナリストである「市民」のことを想起させる。テクストを読むかぎり、「市民」が北部アイルランドの出身であることを明示する証拠はない。しかし、過激であるがゆえにジョイスの風刺の対象となっている「市民」の人物造型には、ウォルシュの要素が利用されている可能性があるのではないだろうか。この点を追究するために、ウォルシュの諸作品における民族主義的主張と、「市民」のそれとを比較検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ルイス・J・ウォルシュの出生地および勤務地における資料調査は、当該作家に対する伝記的研究の根幹をなすものであるが、それが実現できていない。残りの研究期間を考慮すると、出生地と勤務地に赴いて十分な現地調査を行うことは難しいと思われる。また、アイルランド独立運動の指導者であったマイケル・コリンズが、ウォルシュに宛てた書簡が、アイルランド公文書館に保管されており、これを閲覧する予定であったが、外部者の利用が一時的に制限されており実現できなかった(おそらく、コロナ対応の名残りと思われる)。 一方で、上述したように、ダブリンのアイルランド国立図書館に所蔵されているルイス関連書簡の精査によって、伝記的研究の進展が少しばかりあった。 よって、進捗状況は総合的に見て、「やや遅れている」と評価せざるをえない。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、最終年度となる2024年度中に、「市民」の人物造型にウォルシュが利用されている可能性について考察をまとめ、論文化する予定である。また、アイルランド公文書館の利用が制限されているため、メール等で複写資料の可能性を打診してみる。
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Causes of Carryover |
ウォルシュの出生地および勤務地である北アイルランドへの現地調査を実施できなかったことによる。
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