2019 Fiscal Year Research-status Report
Environmental Imagination in Australian Literature and Visual Arts
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19K00409
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Research Institution | Seinan Gakuin University |
Principal Investigator |
一谷 智子 西南学院大学, 外国語学部, 教授 (70466647)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | オーストラリア / エコクリティシズム / 環境文学・芸術 / 気候変動 / 核汚染 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、エコクリティシズム(環境批評)の成果を取り入れ、オーストラリア文学と絵画・彫刻・映像・写真・インスタレーションを含む視覚芸術における環境表象を考察するものである。オーストラリア文学を一つのケーススタディーとしながら、本研究は、地球環境の未来を想像しなおすための新たな思想・倫理を模索すると同時に、持続可能な社会を実現するために文学が担う社会的役割を明らかにすることを目的として開始された。 初年度にあたる当該年は、オーストラリアでの在外研究期間と重なったこともあり、本研究の実施者が研究活動を行っていたメルボルン大学の図書館をはじめ、オーストラリア国内の図書館での文献資料収集を行い、博物館、美術館、アートギャラリーにおいて環境芸術作品の調査を行った。シドニー、メルボルン、アデレード、パース、アリススプリングス、ダーウィン、クィーンズランド、グレートバリアリーフと広範囲に亘る地域の芸術祭や展示会を訪れ、「気候変動」やウラン鉱石の発掘と1950年代から60年代にかけての核実験によってもたらされた「核汚染」を中心とした環境問題をとりあげた作家やアーティストの作品について考察を深め、さらに作家へのインタヴューを実施した。こうした研究の成果は、共編著、論文、招聘講演にあらわすことができた。共編著と論文は、オーストラリアの「気候変動」を描いた小説作品を取り上げており、現在グローバルイシューとなっているこの問題が過去10年の間に「気候小説」というジャンルで世界各地で描かれるようになった現象とオーストラリアの作品にみられる共通点の一端を示すことができた。また、原爆(核兵器)や原発の問題が日本とオーストラリアの文学作品における環境的想像力をつなぐテーマであることを論じた研究発表をメルボルン大学で行うことができたことも本年度の重要な実績だといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の前半は、本研究の実施者の在外研究期間と重なっていたこともあり、研究対象であるオーストラリアの現地に住まい、効率よく研究を進めることができた。資料の収集や調査も予定していたよりも迅速に広範囲にわたって進めることができ、その分析を進める時間も潤沢に与えられていた。また、直接に研究対象となる作家らとの交流を深める環境にあったことも、研究を加速度的に進めてくれた。後半は日本へ帰国したこともあり、いくつかの学会での発表を除いては芳しい成果はあげられなかった。しかしながら、全体としてみると、共著書二点、論文一点、報告書一点、講演1件、研究発表2件、筆者が関わったオーストラリアの核問題をめぐる映画の広島国際映画祭での上映と初年度にしていくつかの意義ある研究業績をあげることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、口承伝承、詩や小説といった文学のみならず、絵画や写真、ドキュメンタリーを中心とした視覚(映像)表現を横断的に考察する。さらに先住民と非先住民系作家の作品を横断的に分析することで、先住民的自然観と西欧的自然観の相違を明らかにし、両者の折衝と交渉のうちに見いだされるエコロジカル思想を見出す。今後は特にジャンルや作家の個別性を超えたオーストラリアの環境表象の特徴や、他地域の環境表象との差異や共通点などを文学と絵画の比較を中心に分析を進めたい。 イギリスの植民地であったオーストラリアの環境は、植民地化の歴史と密接に関連している。そのため、ポストコロニアル理論をエコクリティシズムに接続することは、経済的効率や植民地政策によって暴力的に変形させられた自然や帝国主義的搾取を受けた場所と人びとの経験を浮かび上がらせ、現代の環境問題へとつながる帝国主義的価値観や、自然を対象化し統制しようとする二元論的な意識の問題性を前景化することを可能にする。本研究では、ポストコロニアル理論の視点を導入した研究を行っているが、今後は、分析対象となる作品が、帝国主義的価値観や、環境を対象化し統制する二元論的かつ人間中心的な価値観をどのように脱構築しているかについての考察をすすめる。さらに、こうしたテーマに基づくシンポジウムを予定していたが、新型コロナウィルスの影響で海外からの研究者、作家の招聘が既に中止となってしまったものもある。その点では今後の研究の推進に遅れがみられる心配があり、予算の使い方、研究内容のそのもにも影響があるかもしれないが、その都度状況を見ながら、実現可能な範囲で進めていきたい。
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Causes of Carryover |
参加予定であった学会やセミナー等に体調不良のために参加できなかったため。翌年の海外調査やセミナーへの参加、海外からの講演者の招聘の一部として使用する計画である。(しかし、これを書いている現在、新型コロナウイルス感染の世界的拡大で、当初予定した計画がどれほどまで実行可能かは未定である)
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