2019 Fiscal Year Research-status Report
近世英文学における「虚偽記述」分析に基づく「科学的言説」成立の文化史的研究
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19K00412
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
境野 直樹 岩手大学, 教育学部, 教授 (90187005)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 文学的虚構 / 近世初期文学論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究については、近世初期の様々な文献の、主として電子データでの調査・収集が基本的な作業となり、近隣の所蔵機関への出張によるアクセスを前提とした研究計画を当初立案していた。しかしながらJUSTICEコンソーシアムによるEarly English Books Online (EEBO)の年度内導入を条件とした優待購入と金額的緩和を受けて、研究期間全般にわたる、出張の時間的・経費的節約を実現すべく、研究経費の前倒し使用を申請した上で、研究代表者の所属機関である岩手大学への同データベースの導入に踏み切ることとした。 手続きを経て同データベースが利用可能となったのが、11月後半ということもあり、今年度の進捗状況は残念ながら未だ具体的成果としてまとめる段階に至ってはいない。しかしながら、シドニーの『詩の弁護』の周辺の文献だけでも、ゴッソンの『悪弊学校』との直接的・間接的影響関係を精査する価値のありそうな資料を既に多数発見し、精読に着手できているし、とりわけ同時代のミソジニーに関する文献におけるレトリックには、既に本研究課題である「虚偽記載」の極めて具体的な展開の実例を辿ることができている。一例を挙げれば、Swetnam, _The Woman-hater, Arraigned by Women_(1620)という戯曲と_The Araignment of Lewde, idle, froward, and unconstant women_(1615)という著作との関連性はverbal echoのみならず、異性嫌悪の言説の主題の一つの重要な起源として評価できるのであり、他方、それらをさらに遡る場合、聖書解釈・領有の問題系へと踏み込むことになる状況が、次第に明らかになりつつある。 また、当初計画にあった研究端緒におけるシドニーの『詩の弁護』についても、新たな視座を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初、国立国会図書館、東京大学附属図書館などを利用して文献の調査とリスト作成などを予定していたところであるが、研究遂行に決定的に重要となるEarly English Books Onlineを研究代表者が所属する機関(岩手大学)に導入できる見通しが立ち始めてから、しかるべき時間を経て、11月末に導入されるまで、当初予定していた旅費なども全て充当する必要が想定されたこともあり、実質的な研究活動への着手が遅れたため。 ただし、同データベース導入後は、一次資料に関しては出張してのリサーチが不要となったこともあり、次年度以降ごく早い時期までに当初計画からの遅れを挽回できる見込みである。 本年度はデータベース導入に伴い時間的制約から解放されたこともあり、シドニーの『詩の弁護』の周辺的なテクスト群について、じっくりとリサーチする機会を得ることができた。その結果、アリストテレスの『詩学』の流れとは異なるレトリックに関する潮流の存在について、そしてそれらがシドニーの執筆の動機にいかなる影響を与えうるのかという、研究計画当初には持ち得なかった視座を獲得することができた。それは当初計画の進捗状況に限って言えば、「遠回り」の謗りを免れないかもしれないが、ルネサンス期の書記文化における「信憑性」「信仰の問題」「科学的合理主義」などにまつわる様々な価値をめぐる多様な言説を16世紀末から17世紀初頭の時期に絞り込んで横断的に調査・読解できることによる研究全般についての展望の広がりは、本研究の充実に寄与するものであると確信している。
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Strategy for Future Research Activity |
上述したように、シドニーの『詩の弁護』の成立に遠因として寄与した可能性のある言説群を横断的に精査することで、次年度以降は古典に由来する弁証法的修辞学からの潮流と、プロテスタント詩学からの「ことばの誠実さ」をめぐる価値の両犠牲を、より立体的・多面的に論じることの可能性への手応えを感じている。 もう一つの視座は、科学をめぐる言説の展開である。具体的には「ヒューマー」をめぐる原説が科学的に検証され、批判され、訂正されてゆくプロセスを探ることで、真偽に関わる価値をめぐる言説の展開が極めて活性化した時代にあって、批判され、退けられてゆく側の言説を精査することから見えてくることが期待される「敗者の科学史」とでもいうべきものを浮き上がらせ、可能であればそこにある種の文学的なテクスト性を辿る試みである。 科学史の展開を見るとき、最大の障害として立ちはだかるものが、往々にして宗教的価値観であることは夙に知られている。そのせめぎ合いを精査することを通じて、現代を生きるわたしたち自身がそうした言説群に起因するある種の「テクストの効果」から自由ではあり得ない、むしろ半ば無自覚に、そうしたテクストの効果に絡めとられてゆくメカニズムの一端を解明できればと考えている。
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Causes of Carryover |
Early English Books Onlineの岩手大学への導入費用を確保するために、次年度以降の予算の前倒し請求を行った。金額が為替レートに左右されることと、年度を跨いでの流用額の設定が1万円単位だったこともあり、不足を生じないよう細心の注意を払って設定した流用額であった。結果として2万円弱の次年度使用額となったが、当初計画よりも既に大幅な残額減となっていることもあり、この金額は次年度に繰り越すことで最大限活用する予定である。
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