2021 Fiscal Year Research-status Report
近世英文学における「虚偽記述」分析に基づく「科学的言説」成立の文化史的研究
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19K00412
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
境野 直樹 岩手大学, 教育学部, 教授 (90187005)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 英国ルネサンス / 科学と俗習 / 裁判記録とスキャンダル |
Outline of Annual Research Achievements |
ジェイムズI世治世下において世紀の大スキャンダルとなったFrances Howardをめぐる婚姻のスキャンダルとSir Thomas Overbury殺害についての言説は、歴史的ドキュメントの「虚構性」について、きわめて示唆に富む実例である。裁判記録そのものが、すでに古典的修辞学的伝統を色濃く纏った、娯楽性の極めて高い「読み物」としての性格を帯びていることや、そこから派生したさまざまな言説が散文、戯曲、詩、世俗パンフレットに強いエコーを示しつつ浸透する様子を、本研究は辿りつつある。興味深いことに、そうした修辞学的効果は、さながら同時代の多様な言説空間に敷衍して行くプロセスで、発信源たる裁判記録にみられる表現形式の有用性、説得性を補強するかのように遡及的に機能していると考えることができそうにもみえる。テキストの影響関係におけるこうしたクロノロジカルな「遡及」の効果が後発言説にあたえる影響、とりわけ修辞的影響については、そうした着想が得られた点において、すでに本研究構想当初には想定することのできなかったものであり、研究最終年度を一年延長することにより、この点についてはより一層のリサーチをすすめたいと考えている。 上記ハワードの裁判記録には、Simon FormanというAstrological Physicianすなわち占星術と医学を融合させた(もちろん、王立協会設置以降はいかがわしい俗習として退けられることになる)疑似科学の「第一人者」が重要なかたちで関与してくるが、裁判記録への疑似科学からの関与のありようをつまびらかにすることにより、本研究のテーマである「虚偽言説」の文化史的性格について一層の理解を得ることができるものと思われ、あわせて研究最終年度の具体的研究対象としての絞り込みをすることができたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初計画では渡英して図像や錬金術、占星術、非科学的医療器具など、研究対象とする時代のさまざまな物証について取材しあわせて関連文献について、大英図書館等でリサーチを行う予定であったが、COVID-19に起因する渡英の困難さによって、停滞、ひいては研究方法の修正を迫られたことによる遅延が発生している。現在はネット上で関連する知見を集めつつあり、その意味で一次資料に自らあたることができてはいないけれども、必要最小限のリサーチは継続できている。 コロナの状況およびウクライナ情勢が、渡英による研究実施についての計画立案・遂行の実現可能性をきわめて不透明にしている現状においては、上述のごとく、ネット上、あるいは先行研究文献上でアクセス可能な資料だけが研究対象とならざるを得ず、独創的な知見を導き出すことがきわめて困難であることは否めない。これまで注目されてこなかった非文献一次資料について、近代科学前夜の言説と共鳴しうる物的証拠を確認することで、従前においては理解することが困難であった文献読解の手がかりを得ることが本研究のひとつの大きな目的であることを考慮するならば、なんとしても渡英しての研究続行を実現したいところではある。この可能性について最終年度である本年度前半まで、その機会を探りつつ、あわせて渡英不可能である場合でも、ネット上での研究者との交流や博物館・図書館などとのやりとりを通じて、研究の続行・完遂をめざしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
Early English Books Onlineによって、本研究の最終成果として対象とする一次資料の文献についてはほぼ揃い、また一次的な精読についても見通しが立った。最終年度である本年度については、関連するとおぼしき一次資料のさらなる渉猟と精読、さらには「歴史的文献」を「文学的文献」としてそのテキスト性を評価しつつ読解する、Hayden Whiteらの主張する領域横断的な作業を積み重ねつつ、「客観的記述」を標榜するテクストと「修辞的・文学的言説」との共振関係について、研究成果を纏める予定である。 非言語的な研究対象(図像、形象物など)についての研究は、それらについての先行研究を繙いている段階であるが、関連して存在が期待される周辺資料については、所蔵先のリストなどを当たり、情報提供を求めつつある。これは本来渡英して現物をリサーチする予定で進められている作業であるが、渡英が困難な状況を踏まえて、先方の学芸員、研究者たちとの情報交換を密にすることで、出張してのリサーチが実現しなくても研究の推進が可能となるようにしたいと考えている。 研究成果の公表については、近世初期英文学の関連研究会・学会等での口頭発表を経て、アカデミック・コミュニティからのレビュー・知見の提供を受けたいと考えている。最終的には学術論文のかたちに纏める予定である。
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Causes of Carryover |
当初計画にあった渡英しての博物館・図書館などでのリサーチが、コロナウィルスによる渡航制限などにより実現できなかったため。次年度については、引き続き渡英の可能性をすくなくとも上半期については模索しつつ、困難であると判断された場合は現地の研究者・学芸員(照会済み)とのデータや情報のやりとりを通じて研究遂行が可能な見込みである。その場合、当初旅費として計上してある研究経費は、高解像度画像解析装置(物品費)やデータ提供に伴い発生する謝金、通信費として振り替える予定である。
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Research Products
(1 results)