2019 Fiscal Year Research-status Report
Creativity and the Culture of Fame in Early American Literature
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19K00414
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
山口 善成 金沢大学, 歴史言語文化学系, 准教授 (60364139)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / 名声 / 創造性 / パブリシティ / パーソナリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年6月、中・四国アメリカ文学会第48回大会にて発表した「Bret Easton Ellis, _American Psycho_とうわのそらの文学」では、1980年代アメリカの高度消費社会に、自己プロモーションの文化史の一つの終着点を見出した。文化史家のWarren I. Susmanによれば、19世紀末から20世紀初頭のアメリカにおいて、勤勉さと生産に軸足を置く伝統的な道徳観が衰退し、豊かさを謳歌する消費主義が台頭すると、それに合わせて個人の生のあり方も再定義された。厳しく自己を律するピューリタン的な職業倫理の結晶たる"character"にもとづく人間形成のビジョンは、20世紀になると、マニュアル化され、商品化され、必要に応じて購入することが可能な"personality"をいかにうまく演じるかに、取って代わられた。_American Psycho_に描かれる浪費と自己イメージへの執着の物語は、キャラクターからパーソナリティへの重心移動が、その後一世紀の間に、さらに徹底的に推し進められてきたことを伝えている。 2020年1月に南山大学で開催された「レジリエンスと不安」合同研究ワークショップ2020では、「友情について――19世紀アメリカにおける信用と個人主義」と題し、友情や人づきあいに関する不安の文学表現について、主として19世紀アメリカにおける個人主義や社会関係資本の観点から考察した。 本研究計画の着想の間接的なきっかけになった研究を、著書として出版した。タイトルは_American History in Transition: From Religion to Science_ (Brill, 2020)で、中でも、独立期から19世紀のアメリカ歴史記述における「個」の扱いの重要性に関する議論が、本研究との関わりが深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画に合わせて開始したプロジェクトについて、2019年6月に中・四国アメリカ文学会第48回大会にて発表することができた。タイトルは「Bret Easton Ellis, _American Psycho_とうわのそらの文学」で、この発表をもとにした論文は『アメリカ文学評論』第26号に掲載される。 2020年1月に南山大学で開催された「レジリエンスと不安」合同研究ワークショップ2020では、名声の文化におけるキーコンセプトである「パーソナリティ」と「個人主義」について、とりわけRalph Waldo EmersonやHenry David Thoreauの友情論を題材に論じた。これは本研究課題で当初予定していたテーマの一つである。ワークショップでは、文学研究以外の研究者からも多くの示唆を得ることができ、非常に有益だった。関連して、Herman Melvilleの_The Confidence-Man_を本格的に考察する必要性に気づくこともできた。これは次年度の最初の仕事になるはずである。 本研究計画の着想の間接的なきっかけになった研究について、著書として成果をまとめることができた。タイトルは、_American History in Transition: From Religion to Science_ (Brill, 2020)。出版にあたり、自分の研究が「商品」として加工されていく過程を目の当たりにしたことは、本研究課題にとって得がたい経験だった。今後の考察に活かしたい。編集作業が遅れているため、もう一冊の共著書は年度内に出版することが叶わなかったが、原稿はほぼすべて入稿されており、仕上げを急いでいるところである。 以上の研究成果から、本年度はおおむね順調に研究を進めることができたと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
Washington Irving論を学会誌で発表する。これは19世紀初頭から半ばのアメリカ文学における創作とパブリシティ活動の関係性について、とりわけ自身の「作家像」の流通に自覚的だったWashington Irvingと、彼を中心としたthe Knickerbocker Groupの著作を取り上げて分析した論考で、現在原稿を仕上げているところである。最初期の「アメリカ文学」および「アメリカ人作家」が自己形成するプロセスに、新しい「名声」概念の諸側面(イメージの流通と二次創作的欲望)が稼働し始めていたことを例証し、それがアメリカ文学のコンテンツ形成にどのような効果をもたらしたかについて明らかにする。 Herman Melvilleの_The Confidence-Man_論に取りかかる。予備的な考察は済ませているので、どの学会誌に投稿するかを検討しながら、原稿をまとめる。19世紀半ばの個人主義や市場経済についての議論が論文の中心になる。 独立期から18世紀末におけるthe Connecticut Witsの詩人たち、中でもJoel Barlowの著作を特に取り上げ、当時の作家たちが自らの作家としての自己同一性(authorship)を規定するありさまに、民主政体下の「名声」の文化のはたらきを見出す。考察の中心は、Barlowらによる著作権保護をめぐる議論である。その際、作家の著作権と出版物の公共性を単純な対立項として考えるのではなく、独立初期の民主共和制下に形成されつつあった「アメリカ文学」という新しい概念にせめぎ合い、交渉し合う構成要素として捉える。文学作品の存在意義をどこに見出すか(作品そのものに備わる固有性か、広範囲に知れ渡った認知度か)という問いの存在を例証し、それが初期アメリカ文学史においてどのような意義を持っていたかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
2020年3月9日に予定していた研究会が、新型コロナウィルスの流行によって中止せざるをえず、学外からの研究者招聘のための旅費が残った。状況が落ち着き次第、次年度にあらためて研究会を予定することを、招聘予定の研究者と話し合っている。
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Research Products
(5 results)