2021 Fiscal Year Research-status Report
Creativity and the Culture of Fame in Early American Literature
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19K00414
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
山口 善成 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (60364139)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / 名声 / パブリシティ / パーソナリティ / 友情 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き、アメリカにおける名声やパーソナリティの文化についての議論を入り口に、個人主義社会の人づきあいに関わる問題がいかにアメリカ文学作品を特徴づけているかについて考察を進めた。前年に開始したハーマン・メルヴィル『詐欺師』の翻訳を進めながら、小説の舞台である19世紀半ばを起点としつつ、20世紀後半、さらには現代にかけてのアメリカ社会を射程に入れたアメリカ的交友論の理論化を試みた。この成果はまだ公表の段階に至っていないが、考察を続けるうちにここから新たなプロジェクトが派生し、別途科研費研究計画を申請することになった(「19世紀アメリカの友情論における個人主義と共感の相克に関する研究」、2022~24年度の基盤研究(C)として後に採択された)。 人づきあいや共助のテーマに対角からアプローチする試みとして、同じくメルヴィルの「バートルビー」における孤独についても考察した。この論考は「バートルビー」の翻訳と合わせ、勤務校で開講している共通教育の文学科目で使用する教科書の一章として発表した(別の共同科研費計画「「翻訳」「注釈」の創作性とフィクション生成をめぐる学際的・理論的研究」の研究会でも報告を行った)。また、専門科目としてもアメリカにおける友情論をテーマにした科目を2021年度より設置し、研究成果の教育への還元を試みている。 出版が遅れていた論集『物語るちから:新しいアメリカの古典を読む』を2021年8月に出版した。本書では2章分を担当執筆し、一方の章ではジェイムズ・ボールドウィン『アナザー・カントリー』をゴーストストーリーとして読みながら、ボールドウィンの小説における「捉えがたさ」の意味について考察し、もう一方ではマキシーン・ホン・キングストン『ウーマン・ウォリアー』に描かれた語りのレッスン風景に焦点を置き、移民第二世代が自らの声を獲得する様を論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は成果物としての発表は少なく、その観点ではいささか遅れがあったが、研究全般から見ればおおむね順調に研究を進めることができたと考えている。 一つにはハーマン・メルヴィル『詐欺師』の翻訳つき論説書の出版準備を進めながら、本研究計画を新たなプロジェクトに発展させることができた。「研究実績の概要」で前述したように、それは2022~24年度の基盤研究(C)「19世紀アメリカの友情論における個人主義と共感の相克に関する研究」として採択され、目下、研究を開始したところである。『詐欺師』の翻訳つき論説書は両方の科研費研究計画の成果になる予定である。 また、2021年度は研究内容を教育に還元することができた。共通教育科目では「バートルビー」を題材にした内容で教科書作りに貢献することができ、また専門科目ではキケロの友情論を起点として、主に英語圏のテクストにおいて友情や人づきあいのあり方がどのように描かれ、また論じられてきたかを考える科目を設置した。取り上げるテクストを差し替えながら、しばらくは授業に用いることができるテーマが見つかったと考えている。 出版が遅れていた『物語るちから:新しいアメリカの古典を読む』を刊行することができた。また研究会報告を2回行うことができた。2020年度の研究の遅れのため、研究計画全体としては一年間の計画延長を申請せざるを得なくなったが、2021年度の研究としては以上の理由からおおむね順調に遂行することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは刊行が遅れているワシントン・アーヴィング論一篇、およびハーマン・メルヴィル『詐欺師』論一篇を学術誌にて発表する。アーヴィング論では、自らの「作家像」の流通に自覚的だったアーヴィングと彼を中心としたニッカボッカー・グループの著作を取り上げ、最初期の「アメリカ人作家」が自己形成するプロセスに、近代的な名声概念の諸側面(イメージの流通と二次 創作的欲望)が稼働していたことを例証し、それがアメリカ文学のコンテンツ形成にどのような効果をもたらしたかについて明らかにする。 また『詐欺師』論では、小説終盤に描かれる超絶主義的友情論にアレクシス・ド・トクヴィルのアメリカ個人主義論を接合し、本小説を19世紀アメリカにおける人間関係の二分化の物語として捉え直す。また、トクヴィルの議論を引き継いだ20世紀アメリカの個人主義論の知見をふまえることにより、20世紀後半のアメリカ中産階級たちが抱えた人間関係の不安が『詐欺師』の描く19世紀半ばのアメリカ個人主義にすでにその萌芽を顕していたことを明らかにできるはずである。両論文ともに、英語論文として体裁はすでに整っているので、2022年度中の発表を急ぐ。 次いで、ハーマン・メルヴィル『詐欺師』の翻訳つき論説書の出版の目処をつける。論説3本中、最後の一篇(現代における社会的分断や人と人のあいだの「距離」に議論を広げた『詐欺師』の現代的意義を探る論考)を仕上げ、2022年度後期に勤務校で学内選考が始まる予定の出版助成申請を目指す。 2022年度もオンラインでの学会開催が当面続く予定である。2022年6月には中・四国アメリカ文学会の年次大会がオンラインで開催され、シンポジウムに登壇する(ヘンリー・アダムズの友情論)。研究成果報告や研究交流の新しいかたちを有効に活用し、状況に合わせて柔軟に研究を遂行したい。
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Causes of Carryover |
前年度に続き現地参加を予定していた学会がオンライン開催になり、また文献調査を目的とする海外出張が実施できなかったため、旅費の支出がなかった。また、前年度の研究の遅れが影響し、英語論文2篇の英文校閲が2022年度にずれ込むことになった。
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Research Products
(5 results)