2019 Fiscal Year Research-status Report
世紀転換期における文化意識の変遷とアメリカ文学史の形成
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19K00431
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
貞廣 真紀 明治学院大学, 文学部, 准教授 (80614974)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 環大西洋文化交流 / アメリカ文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は1880年代から第一次世界大戦を経て1920年代にいたる世紀転換期にアメリカで生じた「文化・教養」(culture)の意義の変遷を調査し、それがどのようにアメリカ文学史形成に影響したかを考察するものである。急速な移民の増加や国際流通ネットワークの形成によって多様な文化がアメリカに流入するなかで、知識人たちは国民が共有すべき「文化」を規定し、文化階級の確立を試みた。その中で古典文学が聖別され、文学史が編纂され、アメリカ文学が学問として制度化されることになる。この時期の「教養・文化」の重要性は研究者の間で広く認識されてきたが、本研究の独自性は「古典アメリカ文学」形成におけるジャーナリズムの影響を踏まえる点と知識人の環大西洋的な活動の射程を重視する点にある。 2019年度は日本英文学会第91回全国大会におけるシンポジウムで口頭発表を行ない、1920年代のメルヴィル・リヴァイバルの環大西洋的展開について論じた。年度後半はコロンビア大学の客員研究員として1910年代の「ヤング・アメリカの知識人」及び大学人がどのような「文化」意識を持っていたのか、またそれが彼らの文学意識にどのように影響したのかといった古典文学リバイバル運動のイデオロギー的背景についてアーカイブ調査を行ない、研究成果を投稿した。また、Universidade de Lisboa主催の国際会議でメルヴィル初期作品とスティーヴンソンの関係について口頭発表を行なった他、環大西洋研究の最新事情を学ぶためTransatlantic Studies Associations主催の国際学会およびMLA国際学会に参加した。これらの研究で1920年代のアメリカにおける文学の制度化についてまとまった成果をあげることができたのと同時に、環大西洋研究における大西洋の位置付けなど、今後の研究の射程と方法を確認することが可能になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では具体的に研究を遂行するにあたり、サブテーマ(1)アメリカ文学の制度化とコスモポリタニズム、(2)ニューヨーク知識人とメルヴィル・リバイバル、(3)唯美主義「文化」とジェンダー・セクシュアリティ意識の展開の3点を設定したが、今年度はサブテーマ(1)と(2)に焦点して研究を行なった。テーマ(2)では世紀転換期におけるアメリカ文学史の発生と「文化」をめぐる論争の中心が、コロンビア大学とニューヨーク知識人サークルであったことに注目し、コロンビア大学教員Raymond Weaverが先導したメルヴィル・リバイバルを取り上げた。メルヴィルの再評価は1919年、彼の生誕100周年をきっかけに加速するが、その起源は19世紀末のイギリス社会主義者のアメリカ文学受容にある。今年度の研究では、これらイギリス社会主義者と、1910年代に登場したアメリカの知識人(Randolph Bourne、Van Wyck Brooks、Lewis Mumford)及び大学人がどのような「文化」意識を持っていたのか、またそれが彼らの文学評価にどのように影響したのかについて検証し、古典文学リバイバル運動のイデオロギー的背景を明らかにすることができた。 また、サブテーマ(1)は世紀転換期の「文化」に対する意識の高まりがナショナリズムとコスモポリタニズムの相反する面を持っていたことについて検証するものだが、今年度はRobert Louis Stevensonのハワイに関するエッセイを検証し、環大西洋文化空間における太平洋の位置付けについて考察を試みた。アメリカ作家やアメリカ史に対する関心の高まりと比例するようにして大西洋と太平洋への関心が強化され、アメリカの海洋的拡張が準備されるのだが、アメリカによる海洋進出についての批判的な視点がイギリス文学の側から提出された事情について検証することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究で、世紀末から1920年代にかけての大学における文学の位置付けの変遷を扱うテーマ(2)については一定の成果を上げることができた。今後はテーマ(1)アメリカ文学の制度化とコスモポリタニズムと、(3)唯美主義「文化」とジェンダー・セクシュアリティ意識の展開について継続的に研究を行う。 2020年6月にアメリカのスティーブンソン学会主催の国際会議で発表を行い、テーマ(1)についての研究の射程を再度確認する予定だったが、学会開催の1年の延期が決まったため、成果発表は来年度にかけて長期的に行う。また、スティーヴンソンを検証する中で、彼が活動の中心としたカリフォルニアにおける雑誌産業の活性化や西部における大学制度の変遷についてさらに検証する必要が生じたため、今後はモリル法によって公有地を交付され強化された土地交付大学(land grant college)における教育システムおよびその文学教育についても調査を行う。昨年までに達成されたテーマ(2)の「東部大学教育システムの確立と文学史の成立事情」についての研究成果を西部大学の状況と比較することで、アメリカ文学史確立の地域差やその時差、質の違いを明確化し、アメリカ文学史の確立事情をより大局的な視点から考察することが可能になるだろう。 また、今後はテーマ(1)に関する調査に加え、テーマ(3)のイギリス唯美主義がアメリカにどのように流入し受容されたのかについて雑誌の調査を進め、南北戦争から進歩主義時代にかけての「文化」のジェンダー化とでも形容しうる状況について考察を深める。
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Causes of Carryover |
2019年度の研究費用は必要資料を購入に使用したほか、アーカイブ調査旅費、国際学会発表(1回)および国際学会参加(2回)を行なった。経費使用状況はほぼ計画通りであり、未使用残額は1万円以下である。繰越額は2020年度の資料購入費に補填する。
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