2021 Fiscal Year Research-status Report
世紀転換期における文化意識の変遷とアメリカ文学史の形成
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19K00431
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
貞廣 真紀 明治学院大学, 文学部, 教授 (80614974)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アメリカ文学史 / アメリカ西部 / F. O. マシーセン / 東欧 / 環大西洋文化交流 / オスカー・ワイルド / 地方新聞 / ハーマン・メルヴィル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はアメリカの世紀転換期における「文化・教養」(culture)の意義の変遷を調査し、それがどのようにアメリカ文学史の形成に影響したかを考察するものである。本研究の独自性は「古典アメリカ文学」形成期におけるジャーナリズムの影響を踏まえる点、そしてその流通が作り出す知識人の環大西洋的な活動の射程を重視する点にある。2021年度はアメリカ文学の制度化と文学史形成のプロセスの実態を解明すべく、文学史に「地域」がどのように関与するかに注目して研究を行った。 (研究成果1)2021年9月日本アメリカ文学会東京支部例会にて、20世紀前半のハーマン・メルヴィルとウォルト・ホイットマンの受容過程とアメリカ文学史への取り込みについて口頭発表を行った。1920年代以降活性化した教育目的のアメリカ文学史アンソロジー及びAmerican Literature等新興のアメリカ文学主要研究雑誌の動向を整理し、F. O. マシーセンが二人の作家の受容に果たした役割や、〈アメリカン・ルネサンス〉という時代区分の発生がホイットマンの受容に与えた影響について考察した。また、マシーセンの晩年の著作が東欧と中西部のパリンプセストを想定し、アメリカ像を再考する試みであったことについても報告を行った。 (研究成果2)2021年12月日本ワイルド協会のシンポジウムにて、オスカー・ワイルドのアメリカでの活動とその受容が、アメリカ〈西部〉の形成とどのように関連していたのかについて口頭発表を行った。「イギリス文化の影響を受けず独自の発展を遂げた」アメリカの換喩としての「西部」は、人種、ジェンダー、セクシュアリティの「辺境」のイメージの集積庫だったが、西部の地方新聞がアメリカン・アウトローと重ね合わせながらワイルド像を仕立てあげた事情を分析した。また、西部の社会主義系出版社のワイルドの受容への関与についても考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究はアメリカ文学史形成の実相を解明するものであり、サブテーマ(1)アメリカ文学の制度化とコスモポリタニズム、(2)ニューヨーク知識人とメルヴィル・リバイバル、(3)唯美主義「文化」とジェンダー・セクシュアリティ意識の展開の3点を設定している。2021年度はサブテーマ(1)(2)(3)の全ての点に関連する研究を行なった。前年度までに出てきた課題として、アメリカ文学史確立における「アメリカ西部」の重要性が確認されたため、常にアメリカ西部を意識した研究を行った。 研究成果1ではサブテーマ(1)と(2)の内容を、1920年代から第二次大戦前後にかけてのアメリカ文学の確立期に発展させて研究を行った。また、研究成果2では、サブテーマ(1)と(3)に焦点し、アメリカ文学のイギリスにおける受容において西部が特権的な位置付けを与えられてきたことを確認するとともに、アメリカの側でもアメリカ文学史形成に地方格差の動向があった状況を分析した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究で、計画書で設定したテーマの全てについて研究を遂行することができている。2022年度は、その内容をさらに精密に検証するため、扱う作家を増やし、より大局的な視座から考察を行う。また、一次資料調査を継続して行うことで研究内容のさらなる具体化を進める。また、国内外で研究成果発表を精力的に行う。 具体的にはまず、2021年度に口頭発表を行ったオスカー・ワイルドについての調査をまとめ、論文執筆を行う。また、2022年6月に開催される国際メルヴィル学会において、2019年度より行ってきた文学史形成における環大西洋批評交流の問題をアダプテーション研究に接続して口頭発表を行う。さらに、これまでの研究によってアメリカ文学史形成において西部が重要なファクターとして浮かび上がったことから、10月のソロー学会シンポジウムでは、ホイットマンとソローに焦点し、環大西洋文化交流と西部の関係についてさらに調査を行う。また、2019年度から調査・執筆を行ってきた1920年代のメルヴィル受容研究についての論文(A Companion to Herman Melville掲載予定)が最終段階であるため、その修正と調整を行う。
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Causes of Carryover |
コロナ・ウィルスの感染拡大により海外渡航が制限され、発表を予定していた2件の国際学会が再度延期になったため、国際学会での口頭発表ができなかった。同様に一次資料収集のための渡航調査を行うことができなかった。そのため、大幅な予算の繰越の必要が生じた。 2022年度はメルヴィル国際学会で発表を行うため、資料購入と海外出張に予算を用いる。また、10月のソロー学会で行うホイットマンとヘンリー・デイヴィッド・ソロー研究のための資料購入を行う。また、2022年度の研究の中でヨーロッパにおけるアメリカ文学の受容とアメリカの側の文学史形成の連動的関係の重要性が再認されたため、情勢次第だが、ロンドンの大英図書館ないしイエール大学図書館を中心に大学図書館でのアーカイブ調査を行いたい。
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