2020 Fiscal Year Research-status Report
近代初期イングランドの法学院における文芸活動に関する文化史的研究
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19K00435
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
竹村 はるみ 立命館大学, 文学部, 教授 (70299121)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 法学院 / 諷刺 / 喜劇 / 祝祭 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、エリザベス朝末期からジェイムズ朝初期にかけての法学院祝祭が同時代の商業演劇に与えた影響を精査するために、法学院出身の劇作家ジョン・マーストンの『フォーン』の分析を行った。マーストンは、オックスフォード大学を経て1594年にミドルテンプル法学院に入学するも、法曹界には進まずに、劇作家の道を選ぶ。その作風は極めて諷刺傾向が強く、ベン・ジョンソンに代表される1590年代に台頭した新進気鋭の劇作家に共通して見られる特徴を有している。本年度の研究では、マーストンの諷刺喜劇には法学院祝祭の影響が色濃く見られる点に注目し、調査を進めた。 1604年にジェイムズ一世の妻であるアン王妃をパトロンとする王妃祝典少年劇団によってブラックフライアーズ座で上演された『フォーン』は、模擬裁判を宮廷娯楽として取り入れる枠構造において、マーストンが在籍していたミドルテンプル法学院で1597年暮れから1598年にかけて行われたクリスマス祝祭の趣向を積極的に取り入れている可能性が高い。リチャード・マーティンやロバート・ホスキンスら後に議会派の急先鋒として活躍することになる人物が学生時代に携わったミドルテンプル法学院のクリスマス祝祭は、他の法学院の同種の祝祭と比しても、諧謔の精神が強く、ことに宮廷に対する批判精神が顕著に見られる。従来の研究ではジェイムズ一世の宮廷への批判として位置づけられることの多い『フォーン』を1590年代の法学院祝祭と関連付けることにより、マーストンの宮廷諷刺はむしろエリザベス朝末期に胚胎されていることを明らかにし、それがジェイムズ朝初期の商業演劇に継承されることによってさらに強い訴求力を発揮した過程を跡づけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
コロナ禍により、イギリスへの調査出張を実施できないため、法学院祝祭の実態に関する必要な史料を収集することに困難が生じたため。
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Strategy for Future Research Activity |
法学院出身の劇作家ジョン・マーストンの喜劇『フォーン』を、宮廷文学との関連でさらに考察する予定である。『フォーン』の最終幕で行われる愛神キューピッドによる裁判には、ヨーロッパ中世の宮廷文学で流行した「愛の法廷」のモティーフの転用が見られる。「愛の法廷」という文学的トポスが法学院生によって祝祭余興として演劇化される中で、宮廷風恋愛の概念がより世俗的・市民的な価値観に基づいて検証され、宮廷諷刺へと繋がった可能性を精査する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍によりイギリスにおける調査出張を実施できなかったため。事態が回復し、感染による脅威が解消されれば、調査出張を実施する予定である。
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Research Products
(1 results)